中小建設業における建設現場の「安全・安心の確保」に向けたデジタル化推進 に関する戦略策定
委託先団体:一般財団法人 ニューメディア開発協会
目次
1.事業概要
2.事業の目的
2-1. 本テーマの背景・必要性
2-2. 社会導入・事業化を狙う対象領域
2-3. イノベーションの目指す姿
3.事業の内容(実施事項)
3-1. 市場・ユーザのニーズ・評価を捉えるための実施事項
3-2. 技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題への対応、目標達成のための実施事項
4.主要成果
4-1. 市場・ユーザのニーズ・評価
4-2. 技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題及び達成目標に対して得られた成果
4-3. 社会導入・事業化に向けた課題へのアプローチ、普及戦略
5.今後の展開(活動予定)
5-1. 狙う市場、経済性、普及に至るための環境整備
5-2. 社会導入に向けた活動予定
6.お問い合わせ先
1.事業概要
本戦略策定では、中小建設業において、技術イノベーションを伴う新たな技術領域における実証を行い、建設現場における市場ニーズを捉えた当該市場への安全・安心の仕組み作りに向けた戦略ロードマップを策定した。これにより、将来的に当該市場への廉価なオペレーションシステムの提供と普及を目指す。
2.事業の目的
2-1. 本テーマの背景・必要性
我が国の建設業界は、労働環境の厳しさ、人口減少などの影響により慢性的な人手不足の状態にある。こうした中で、国土交通省のIT化施策「i-Construction」は、建設工事における生産性向上に向けた重機の自動化を中心に、操作管理、測量の3D化等、現場施工技術のIT化に向けて大きな進展を見せている。しかしながら、中小建設業の現場においては、作業員の事故やヒヤリハット事例が数多く報告されており、中小建設業の業務についてデジタル化を促進し、現場の安全・安心 レベルを高めつつ、生産性向上を図ることが急務となっている。
2-2. 社会導入・事業化を狙う対象領域
元請けである中小建設会社を対象領域とする社会導入・事業化に向けた戦略検討
2-3. イノベーションの目指す姿
中小建設業を実証企業として、外装工事・内装工事の関連業務をサンプルとした「行動の見える化」を進め、「安全・安心な工事施工」に向けた技術検証と実証を実施する。また、これまでの「事故事例」あるいは「ヒヤリハット事例」をベースに、工事施工従事者の作業行為から派生する行動情報(動作データを用いた作業の基本動作)を認識・収集し、双方の照合・突合によるアルゴリズムの開発を行い、建設現場の事故等を未然に防ぐための危険行為の予測や疲労推定等につながる手法を確立する。
技術検証のイメージ
作業員の作業中の動作データ → ・危険行動の予測
・疲労の推定
基本行動の抽出
基本行動
歩行
しゃがみ
立ち上がり
上り
下り
座り
起立
倒れる
起きる
3.事業の内容(実施事項)
3-1. 市場・ユーザのニーズ・評価を捉えるための実施事項
実施事項[1] 業務モデル構築
建設従事者の危険度合または事故を生じるおそれの程度を見積もり、リスクの低減対策に向けた「業務モデル」の構築を行った。これまでの「事故事例」あるいは「ヒヤリハット事例」をベースに工事施工従事者の作業行為から派生する行動情報(動作データを用いた作業の基本動作)をInQrossカイゼンメーカー(製造業の工場で作業員の行動パターンを分析するシステム)を用いて認識・収集し、双方の照合・突合によるアルゴリズムの開発を行い、建設現場の事故を未然に防ぐための危険行為の予測や疲労推定等につながる手法を検討した。これにより中小建設業の現場作業安全レベル向上に役立つ業務のモデル化を進めた。
建設現場作業リスク低減に向けた組織モデル
実施事項[2] 危険リスクの設定と精度向上
危険行為が事故につながる危険リスクの設定及びその精度を向上に向けた対応について検討を行った。業務モデルから導き出されるアラートとアラートの判断基準の設定(誤アラートの確率、アラート見逃しの確率)方法について検討を行った。検討にあたっては、労働安全コンサルタント、労働安全専門家及びヒトの行動とリスク検知に関する研究機関等の意見も踏まえで検討を進めた。今後は、アラート精度向上に向けて、実際の現場における実データと各作業に含まれる基本動作の認識レベルを上げるために、AI学習によってチューニングを行っていく。
3-2. 技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題への対応、目標達成のための実施事項
実施事項[3] アラートシステムの開発
実用性の高いアラートシステムの開発とサービス提供に向けて、技術検証によるアラートの仕組み作りの検討を行った。EdgeComputingを活用した「直接的な通知」を行う仕組み及び現場管理におけるクラウドシステムによる「間接的な通知」の仕組みの検討を行った。また、建設現場の従事者の中でも、特に高齢者や外国人の作業員への伝達についても、アラートシステムの開発・運用の中で検討を進めた。特に、現場作業員へのアラートについては、ヘルメットへのバイブレータ通知等、誰にでも分かりやすく、かつ注意喚起できるシステム機能の開発の検討を行った。
実施事項[4] 業務モデルの変更及びアラートシステムのアップデート
業務改善に向けた業務モデルの変更とアラートシステムのアップデートに向けた対応を行った。業務改善については、業務改善のサイクル(現状把握 ➡ 問題点の見える化 ➡ 優先順位付け ➡ 業務改善の方向性)を回しながら業務モデルの見直しを行っていく方式を検討した。また、アラートシステムについては、実際の建設現場においてリスクアセスメント(作業における危険性の特定と見積もりを行い、リスク排除や低減措置等の見える化)に基づいたアラーム発信の評価を行い、実用性の高い、柔軟なシステム構築の検討を行った。
業務モデルとアラームシステムの関係性 ※技術検証・実証WGにて作成
3-3. 社会導入・事業化に向けた実施事項
実施事項[5] 中小建設業に対するアラートシステム提供の検討
廉価かつ導入がし易いアラートシステムの提供の検討を行った。クラウド型のサービスによって、実用性が高く、廉価で導入のし易いアラートシステムの提供を推進する。また、同時にリスクアセスメントに基づくマニュアル提供等、中小建設業においても利活用し易いサービス提供を検討した。
実施事項[6] 建設業界全体への認知と理解・促進
工事評定につながる取り組み評価に向けた建設業界全体への認知と理解・促進について検討を進めた。関係省庁及び関係業界団体に対して、ITを活用した「安全対策」や「創意工夫」への取り組みについて、その理解・促進を進めるための方策について検討した。労働安全規則や関係ガイドラインの見直しにつながる工事成績評定に向けたアプローチについて検討を行った。
実施事項[7] IT活用による安全対策への取り組みの展開
ITを活用した「安全対策」への取り組みの横展開について検討を行った。ITを活用した安全対策への中小建設業の取り組みの横展開に向けて、モデル企業における導入効果の事例化と現場導入と普及に向けた検討を進めた。また、業務モデル化の推進により、業務改善につながる業務の見直しを推進し、段階的ステップを踏んだ対応方法について検討を行った。
実証実験の概要
建築現場の枠組足場作業の危険リスク検証
(足場作業、材料の運搬、床の段差、凸凹によるつまずき等リスク)
[1] 枠組足場における4作業について危険リスクのデータを取得する
[2] 枠組足場にロケタグを設置し作業員の足場での動作(歩行・停止・作業)をデータ化および可視化する
[3] カメラによる作業員の動作を俯瞰するデータも合わせて取得する
[4] lnqRoosの足場での性能確認および定点カメラによるデータ習得を検証する
[5] 危険リスクアラート(転倒時アラート警報)を別途確認する
実証実験の設備
[1] ロケタグの設置 高・横への配置によるゾーン
データ収集用PC(電源確保要、スキャナー装置)
[2] 俯瞰カメラ2台設置
[3] 作業員人数(作業工種・就業年数等)、当日の体調
アラートシステム要件
実際の建設現場においてリスクアセスメント(作業における危険性の特定と見積もりを行い、リスク排除や低減措置等の見える化)に基づいたアラーム発信の評価を行い、実用性の高い、柔軟なシステム構築を検討中。
廉価かつ導入がし易いアラートシステム
クラウド型のサービスによって、実用性が高く、廉価で導入のし易いアラートシステムの提供。同時にリスクアセスメントに基づくマニュアルの提供等、中小建設業においても利活用し易いサービス提供を検討中。
4.主要成果
4-1. 市場・ユーザのニーズ・評価
中小建設業へのヒアリング及び実証実験を通して、以下の3点のニーズ・評価が確認された。
[1] 生産性向上と並行した安全対策の強化
[2] 建設現場においても導入が簡易で廉価なシステムの提供
[3] 建設現場の管理責任者における「複数現場の安全管理」(法改正に伴う)の必要性に伴うデジタル化促進
4-2. 技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題及び達成目標に対して得られた成果
実証実験は、6階建てマンション建築現場にタグ(作業者の持つヒトタグと位置を現すロケタグ35個を設置)とカメラを活用し、作業者の4つの危険行動(足場の上下作業、危険場所侵入、運動量の把握による作業負荷、転倒検知)の可視化及び検証を行った。
【技術検証】
4つの危険行動に関する注意喚起アラートが可能であることの検証結果が得られた。また、危険予知に関する検証及びアラートシステムに関する技術的課題とシステム構成の検討を行った。
【業務モデル検討】
実証実験と並行し、建設現場の作業リスク低減に向けた活動については、「安全管理強化」及び「教育の充実(組織教育とパーソナル教育)」の2つの組織活動モデルについて検討を進め、その考え方について整理した。また、業務モデルについて、実現性、汎用性、可用性の観点から評価を行い、仮説ベースではあるが業務モデルの構築は完了した。今後、技術検証と及びアラートシステムのアップデートと並行して、今後も継続して業務モデルの更新を行っていく予定である。
4-3. 社会導入・事業化に向けた課題へのアプローチ、普及戦略
【事業化の視点】
[1] 汎用的な仕組みとしての確立
[2] 廉価なシステムによる導入サービス
[3] 新人・新規経験者(外国人労働者含む)に対しても運用可能なシステム構成
[4] リスクアセスメントを踏まえたKYT教育実施
【導入・普及の視点】
[1] 基幹システム連携によるソリューション強化に一環での導入推進
[2] 「産・官・学の連携スキーム」の地域連携による推進
5.今後の展開(活動予定)
5-1. 狙う市場、経済性、普及に至るための環境整備
(1)中小建設業に対するアラートシステム提供
中小建設業向けのアラートシステムのサービス検討・提供を進めていく。クラウド型のサービスよって、実用性が高く、廉価で導入のし易いアラートシステムの提供がポイントである。そのためにも、作業員の行動(位置・動き・作業)をセンシングする装置は、配置・電源・稼働時間・充電方法・対環境・ネットワーク障壁等、建設現場特有の環境仕様(施工環境、働く環境が常に変化)に即した柔軟かつ廉価な装置が必要である。侵入検知及び過重労働等の「危険行動の可視化」に向けたサービス提供等について、建設業向け基幹系システムにアドオンする形でサービス提供(クラウド型)する方法を検討する。
更に、システム運用面においては、IT部門を持たない中小建設業向けに、現場の管理者が簡便に設置できるものを運用支援サービスとして提供する方式を検討する。
また、アラートシステムの提供については、以下のステップにて検討を進める。
[1] 第1ステップ
「過去の事故やヒヤリハットを分析」によって、自社の作業の棚卸と分析を進める
[2] 第2ステップ
作業者(個人)ごとのリスク傾向の見える化に向けた取り組みを進め、パーソナル教育から組織学習強化へとつなげる
[3] 第3ステップ
リスクアセスメント実施に関連付けて示されている「建設作業リスクアセスメントツール」の提供等を進める
(2)安全対策への取り組みの展開
ITを活用した「安全対策」への取り組みの横展開を推進する。ITを活用した安全対策への中小建設業の取り組みの横展開を行うことによって、モデルとなった企業の導入効果の事例化を進め、現場導入と普及に向けたモデル企業化を進める。
また、業務モデル検証と並行して、業務改善につながる業務の見直しを推進し、リスクアセスメント分析に基づくKYマニュアルの提供等、中小建設業において利活用し易いサービス提供を進めていく。
(3)建設業界全体への認知と理解促進
工事評定につながる取り組み評価に向けた建設業界全体への認知と理解促進について検討を進める。関係省庁及び関係業界団体に対して、ITを活用した「安全対策」や「創意工夫」への取り組みについて、その理解を促進するために以下の3つの対応を推進する。
【国土交通省 新技術情報提供システム(NETIS)への登録申請】
労働安全規則や関係ガイドラインの見直しにつながる工事成績評定工事評定に関連した対応として、国土交通省が新技術の活用のため新技術に関わる情報の共有及び提供を目的に整備している新技術情報提供システム(New Technology Information System:NETIS)への登録申請に向けた対応を行う。
【建設業向け共通対応】
安全大会(元請け建設業主催)における「安全・安心な建設作業」に向けた取り組みを紹介する。
【建設業界向けPR広報対応】
建設関連の展示会及びセミナーにおいて、事業の成果の積極的なPRを行う。
(4)普及戦略について
本事業の提案システムの普及展開にあたって、適用する分野・対象者について導入シナリオを検討する。
【展開普及の要件】
中小建設業における死亡災害の工事の種類・災害の種類別発生状況等を鑑み、以下の観点を踏まえた普及展開を要件としていく。また、足場等平面的現場工事から立面的現場工事に向けたステップを踏んだ普及展開を進めていく。
[1] 事故・災害の多い発生工種
[2] 現場の構造(難易度)から最初は2次元現場(平面・立面)からデータ取得とPOC継続
[3] 3次元現場(建築物・構造物)へ拡大
5-2. 社会導入に向けた活動予定
今後の活動予定としては、ニューメディア開発協会が中心となって、技術面及び導入普及に向けた以下の取り組みを進める。
(1)技術面の取り組み
– 中小建設業の現場の安全を推進する関係機関との連携を図りつつ、各建設業が実施する「安全大会」における成果の活用を進めるとともに、公的資金の活用も視野に入れて、危険行動の識別手法の検討や教師データの蓄積のための取り組みを継続する。
– 国土交通省では、新技術の活用のため、新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として、新技術情報提供システム(New Technology Information System:NETIS)を整備しているが、本事業の成果についてNETISへの登録申請することを検討する。
– 建設業のリスクアセスメントに関しては、労働安全衛生総合研究所等との連携により過去の事故やヒヤリハットの分析に基づくリスク課題を深掘りし、建設業の関係団体や事業者とともに安全管理強化に必要な取り組みを検討する。
(2)導入普及に向けた取り組み
– 中小建設業は、業務効率化による「生産性向上」、2024年問題に代表される「法令順守」及び「安全・安心の施工」の3つをニーズとして事業遂行を行っていく必要がある。
これらの3つのニーズと課題解決に向けて、中小建設業向け基幹システムのソリューションを有するITベンダーと連携し、侵入検知及び過重労働等の「危険行動の可視化」に向けたサービス提供をアドオンする形でソリューション強化の一環で事業展開を進めていく。
また、ソリューション強化にあたっては、今後の実証研究の過程において、連携・活用可能なデバイスを有するソリューション提供ベンダーとの技術連携によって進めていく。
– 本事業における「安全・安心」に向けた取り組みの展開について、業界(建設業協会、県土木部門)との情報共有及び広報活動を進めていく。
また、本事業成果のPR活動に向けて、前述の各企業における「安全大会」における情報展開と活用を行うとともに、建設業界の主催する展示会あるいはセミナー等に参加して積極的なPR活動を展開していく。
6.お問い合わせ先
イノベーション戦略策定事業全般:(一財)機械システム振興協会
本事業の詳細:(一財)ニューメディア開発協会
URL: https://www2.nmda.or.jp/
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