鉄スクラップの高精度選別システム検討フォーラム (2023年度 活動報告書)

2024年3月
一般財団法人 機械システム振興協会

目次

第1章 本フォーラムの趣旨・目的
1-1. 趣旨・目的
1-2. フォーラム委員
第2章 鉄スクラップ利用拡大の背景
2-1. 背景
2-2. 鉄鋼業のカーボンニュートラル実現に向けて
2-3. 鉄スクラップとは
第3章 鉄スクラップを巡る現状
3-1. 鉄スクラップの発生状況および発生量
3-2. 国内の鉄スクラップ利用・リサイクルの現状
第4章 鉄スクラップの有効利用拡大を阻む要因と対応課題
4-1. 不純物元素の混入
4-2. 検収による高品質のスクラップ確保の実態
4-3. 鉄スクラップの利用拡大への課題
4-4. 選別システムの開発課題
第5章 鉄スクラップに混入する異物の選別
5-1. 開発の方向性
5-2. 開発課題に対するアプローチ
第6章 鋼材種判別
6-1. 開発の方向性
6-2. 開発課題に対するアプローチ
第7章 鉄スクラップの高品位化(化学組成、グレード推定)
7-1. 鉄スクラップの品質を巡る課題
7-2. わが国が目指すべき鉄スクラップの「高品位化」
7-3. 開発課題に対するアプローチ
第8章 コンベア選別技術による鉄スクラップのソーティング(システム構成上の課題)
8-1. 鉄スクラップの高品質化実現のための選別システムの要求仕様
8-2. ベルトコンベア方式の選別システムの採用
8-3. スクラップ選別システムに求められる基本性能
第9章 選別システムの開発と並行して進めて行くことが大切な課題
9-1. 鉄スクラップ規格の標準化(AI選別技術開発による市場の透明性向上)
9-2. 静脈産業と動脈産業との間での情報連携
第10章 まとめ
10-1. まとめ

<参考文献>

第1章 本フォーラムの趣旨・目的

1-1. 趣旨・目的

 当協会では、令和5年度フォーラム事業として、グリーン・トランスフォメーション(GX)やリサイクル化推進、天然資源の有効な利用促進の観点から、とりわけ国内生産量の多い金属系基盤材料の各種スクラップのリサイクルを効率化するための戦略の方向性を明らかにするための議論を行った。

 具体的には、これまで鉄鋼業界の高炉3社が中心に進めてきたカーボンニュートラル(以下、「CN」と記載。)実現戦略のうち、鉄スクラップおよび還元鉄を鉄源として高級鋼を作る大型電炉の利用が、鉄鋼業のCN実現の現実的な選択肢との認識の下、産官学の有識者を交え、鉄リサイクル促進のために鉄鋼は種々の合金として使用されるため合金添加元素が混入すること、スクラップ回収の際に、銅や錫等の異物が意図せずに混入する。先行研究では、2050年頃には世界の鉄鋼に混入してしまう銅の濃度が許容値を越えてしまうとの推計もある。したがって、資源循環システムを持続可能とするためには、それらの混入量をできるだけ抑制するために、AI画像認識技術を用いて、コンベア上の異物あるいは、鉄スクラップの品種を自動的に見極め、ピックアップして選別し、鉄スクラップへの異物混入を抑制し、品種を揃えることを可能とする必要があることから、鉄スクラップの選別システム技術について、2030年までに先導研究の前段階としてシステムの構想を具体化・明確化するための技術的検討を行った。

1-2. フォーラム委員

氏名所属役職
【委員長】
星野 岳穂
東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻特任教授
【委員】
大和田 秀二早稲田大学 理工学術院教授
岸本 康夫JFEスチール株式会社 スチール研究所研究技監
醍醐 市朗東京大学 先端科学技術研究センター准教授
武山 健太郎東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻特任助教
田島 圭二郎株式会社EVERSTEELCo-Founder, CEO
寺崎 英樹ハリタ金属株式会社常務取締役
リサイクル事業本部長
中島 賢一一般社団法人 資源循環プロバイダ理事長
林 誠一株式会社鉄リサイクリング・リサーチ代表取締役
松浦 宏行東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻准教授
吉川 健大阪大学大学院 工学研究科マテリアル生産科学専攻教授
相澤 徹一般財団法人 機械システム振興協会専務理事

オブザーバー
 経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課
 経済産業省 製造産業局 金属課 金属技術室

【第1回開催状況】

第2章 鉄スクラップ利用拡大の背景

2-1. 背景

 日本国内では、産業分野のうち鉄鋼業は、CO2排出量が2021年度で1.45億tと、産業部門の排出量の38.7%、日本全体の13.6%を占めており、CO2の排出量が最も多い産業部門となっている[1]。このため、鉄鋼業のCO2排出削減は、日本全体のCN実現のために急務となっている[2]。世界各国も同様な事情から、鉄鋼業のCNを、官民の協力の下、政府の支援を受け総力を挙げて対策を講じつつある。
 日本では、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け国家プロジェクトとして、高炉3社による高炉をベースとした水素還元製鉄技術開発が進められている。最近では、欧州と同様に、直接還元製鉄に加え、鉄スクラップを最大限有効に活用する大型電炉の導入に向けた技術開発を新しい戦略の柱の1つに据えている。
 鉄スクラップを回収して電炉で溶解して製造する場合、鉄鉱石の採掘、輸送、および高炉プロセスに伴うCO2排出分が削減(回避)されるため、高炉―転炉法による鉄鉱石還元では、1tの鉄鋼を生産するのに約2.0t、電炉法によるスクラップ溶融では、約0.5tのCO2が排出されるとなっていることから、CO2排出量を約75%削減することができる[3]。 
 今後、世界の各地域で電炉法による鉄の製造プロセスの原料として、鉄スクラップ等が最大限活用されていくことが予測される。

2-2. 鉄鋼業のカーボンニュートラル実現に向けて

 世界的にもCN実現の動きが本格化している。その中で、鉄鋼業は、温暖化対策としてCO2排出削減が大きな課題となっている。
 製鉄プロセスにおいて原料である鉄鉱石(酸化鉄)から酸素を取り除く過程で、還元剤としてコークス(炭素)を利用しているため、不可避的に1㎏製鋼するのに2㎏のCO2が発生してしまう[4]。CNに向けての大転換戦略を展開していかなければならない状況にある。

 脱炭素製鉄として、世界では、直接還元鉄+電炉法が、主流になりつつある。当面は、シャフト炉で天然ガスを使用して鉄鉱石を直接還元するアプローチが主流になる見通しだが、その場合は直接還元鉄(DRI:Direct Reduced Iron)を製造する毎にCO2が排出されることとなる[5]。 

 日本では、直接吹込みによる水素直接還元法、高炉から電炉化(大型電炉での高級鋼製造)に加えて、高炉を用いた水素吹込みにより鉄を作る技術といった複数の選択肢が模索されている(図2-1を参照。現在は研究開発段階にある。だたし、水素還元のみではCO2排出量はゼロにならない)。
 日本の高炉3社は、CO2削減のために、製鉄プロセスにおける水素活用(水素還元製鉄)[6]に取り組む一方で、「大型電炉での高級鋼製造」も戦略の柱に位置付けている。

 現在の高炉法に対して、鉄スクラップの利用を拡大する場合、鉄鉱石の採掘、輸送、および高炉プロセスに伴うCO2排出分を最大で75%削減することができる。将来的な鉄鋼業のCN実現に向けての現実的な選択肢として、鉄スクラップの使用量を拡大し自らのCO2排出量を抑制するというのが、世界的にも大前提になりつつある。
 その観点からも、鉄スクラップの品位(鉄鋼材および鉄スクラップ中の銅等の不純物元素の含有濃度を品位とし、不純物元素濃度が低いほど品位が高いと評価する)を上げるのは世界全体の課題であり、課題解決に向けた取り組みを行うことは意義深い。鉄鉱石という天然資源をできるだけ長く保全するためにも、スクラップの有効利用は、今取り組んでおいて、後に「後悔しない」有効な戦略であると言える。

図 2-1 カーボンニュートラルの実現に向けた複数のアプローチ

(出典)GX実行会議「分野別投資戦略」(令和5年12月22日)参考資料(鉄鋼)より引用
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/sankou1.pdf

2-3. 鉄スクラップとは

議論に入る前に、鉄スクラップの用語について、解説を加える。
ヘビー・スクラップとは、ギロチンシャー、ガス溶断、重機などで回収した鉄スクラップをサイジングしたものである。

 ヘビー・スクラップは、厚みと長さでHSからH5まで5区分され、薄いものほどスクラップの品質としては悪いと評価され、H2、H3、H4の順番で薄くなっている。薄いH2以下の鉄スクラップが、全体の35%ぐらいを占めている(図2-2、図2-3を参照)
 H2は、日本国内における鉄スクラップの中で最も流通量が多い指標品種である。主に建築物の解体工事などから排出された鉄筋、鋼矢板などで構成される。


図2-2 ヘビー・スクラップの等級[8]

図2-3 スクラップの種類別構成比
(出典)鉄源流通量調査2022暦年(日本鉄源協会)

(注)上記の図の中で「加工スクラップ」とは新断、鋼ダライ粉、銑スクラップをいい、これ以外を「老廃スクラップ」という。また、各スクラップの説明は以下のとおりである。
– 加工スクラップ:機械、電機、車両、船舶などの工場等での加工工程で発生するスクラップ
– 老廃スクラップ:廃車、廃船、建物の解体など使用済みの鉄製品から発生するスクラップ
– シュレッダー・スクラップ:主として鋼板加工製品を母材にしてシュレッダー機により破砕したあと磁気選別機で選別された鉄スクラップ
– プレス・スクラップ:主として鋼板加工製品を母材にしてプレス機により圧縮成形した直方体状のスクラップ

第3章 鉄スクラップを巡る現状

3-1. 鉄スクラップの発生状況および発生量

 スクラップの流通量、市場規模は、過去に生産された鉄鋼が現在どの程度蓄積されているかを示す「鉄鋼蓄積量」で推計され、市場が形成される。例えば、日本国内では、1960年の累計鉄鋼蓄積量は約1.1億tであった[9]。その後、高度経済成長によって10年後の1970年には約3.4億tとなり、この間の鉄鋼蓄積量の平均年間伸び率は過去最高水準の11.6%に達した。

 その後も累計鉄鋼蓄積量は増大し続けたが、平均年間伸び率を見ると1970年代には6.8%まで落ち、1980年代は3.8%、1990年代は2.5%と低下の一途を辿り、直近の数値(2021年度)では、累計鉄鋼蓄積量が14.1億t、年間伸び率は0.6%に留まっているのが近況である。

 世界人口の増加と途上国の経済発展により、インフラ整備等に伴う世界の鉄鋼蓄積量は、今後も拡大が見込まれている。鉄鋼蓄積拡大に伴いスクラップ発生量が増加し、鉄鉱石からの生産、すなわち高炉ー転炉法の生産量よりスクラップ等-電炉法の生産量が、今世紀半ばには逆転するとの推計予測がある。しかし、世界全体の鉄鋼蓄積量拡大に応えるため、少なくとも今世紀中は、スクラップだけでは鉄鋼需要を満たすことはできず、現状並みのプライマリー鉄生産の供給は不可欠とみられている。

 日本国内で出てくる鉄スクラップのうち老廃スクラップは、購入量が国内の流通量となり、それに国外への流出(輸出)を合わせ、スクラップ発生量とみなして定量把握している。スクラップの輸出比率は、2000年初めは15%程度だったが、現状では25%に上がっている。それだけ国内の鉄源需要が落ちていることになるが、特に、近年の日本国内では、老廃スクラップの減少が大きい一方、加工スクラップはそれほど減少していない(図3-1-1)。

 品種別の国内スクラップの流通量内訳を鉄源流通量調査(日本鉄源協会)でみると、2022年は全体で2,279万tであり、そのうちの1,420万t、62%がヘビー・スクラップで、シュレッダー・スクラップは約8%、プレス・スクラップは2%弱となっており、ヘビー・スクラップ主体の構造となっている(図3-1-2)。

図3-1-1スクラップ発生量の推移(単位:万トン)
(出典)鉄源年報データを基に日鉄総研作成[10]

図3-1-2 国内における鉄スクラップの流通量(単位:万トン)
(出典)鉄源流通量調査2022暦年(日本鉄源協会)

3-2. 国内の鉄スクラップ利用・リサイクルの現状

 日本の鋼材生産は年間約9,000万tで、そのうち5,500万tは純外需(直接輸出+間接輸出)となっている。一般的に、鉄鋼蓄積量の2~3%前後が毎年鉄スクラップとして発生するといわれている。現在国内の鉄鋼総蓄積量14.1億t(2021年度、日本鉄源協会推計)の2%に相当する2,600~3,900万t前後が鉄スクラップの原料になると推計できる。市場としてはそれなりの規模ではあるが、一方で鉄鋼蓄積量の伸び率は頭打ち傾向にあること等から、今後、国内の鉄スクラップ発生量は横ばいあるいは縮小に向かうと予測されている。また、年間600~800万t程度のスクラップを輸出している。

 令和3年度産業経済研究委託事業「カーボンニュートラルを踏まえた我が国金属産業の持続的発展に向けた調査事業報告書」では、日本のスクラップ需給の予測(2030年、2050年)を試算するに当たり、スクラップ発生量については、将来にわたり現在の我が国製造業の国際競争力が維持されるものとする「高位シナリオ」、第6次エネルギー基本計画の前提となった2030年粗鋼生産量を9,000万tとする「基本(中位)シナリオ」、2050年に自動車および鋼材の輸出がなくなる「低位シナリオ」を含めた3つのシナリオのいずれにおいても現状のスクラップ発生量を下回ると推計されている(図3-2を参照)。(注)

(注)令和3年度産業経済研究委託事業 カーボンニュートラルを踏まえた我が国金属産業の持続的発展に向けた調査事業報告書「2-4.日本のスクラップ需給の予測(2030 年、2050年)」より引用。

図3-2 粗鋼生産量シナリオの前提整理
(出典)上記(注)に記載の報告書より転載。

 国内スクラップ流通量は、前節で示したとおり2022年において2,279万t(老廃+加工)であり、我が国産業の強みである「輸出」を含めた鋼材生産(同年8,923万t)の25%にとどまっている。
 スクラップの品質面では、現在、主として建築・土木向けの鉄鋼製品製造に用いられる低品位スクラップは余剰傾向にあるが、一方で、日本鉄鋼業の強みである高機能鋼材生産に利用可能な高品位スクラップは不足傾向にあり、還元鉄(HBI:Hot Briquetted Iron)等の鉄鉱石由来の冷鉄源の利用も組み合わせていくことが必須となる見通しである。
 このような状況のもと、スクラップの高品位化に向けた取り組みの必要性は高い。

第4章 鉄スクラップの有効利用拡大を阻む要因と対応課題

4-1. 不純物元素の混入

 スクラップを原料として、特に高級鋼を生産しようとする場合に課題となるのが、不純物混入の問題である。
 特に、トランプエレメント(銅、S)の混入は、極力避ける必要がある。還元鉄やスクラップに不純物が許容量以上に含まれると、それらの鉄源を用いて生産された鋼材では、例えば、自動車向け等の高級鋼の製造は困難となる(図4-1を参照)

図4-1 スクラップにおける不純物の濃度
(出典)日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050[11]

 

 現在、純度の高い銑鉄の製造が可能な高炉と同等の品質を電炉法で実現することは世界的にも実用技術は確立されておらず、非常にハードルが高い。

 鋼材品種を電炉・転炉比率で比較すると、一般に形鋼、棒鋼は電炉比率が高く、熱延鋼板、冷延鋼板では高炉比率が高い。また、線材については高炭素線材(一般には、スチールコードやピアノ線のような高強度鋼)は転炉比率が高く、その他は電炉比率が高い(図4-2を参照)

図4-2 主要鋼材品種の電炉・転炉比率

 トランプエレメント除去に関する技術については、現在、原料に混入してしまった銅等の不純物元素を実用的に除去する技術はなく、鋼材内に銅の混入を防ぐには、銅を含まない冷鉄源を投入して濃度を薄めるしかない。
 したがって、銅が不可避的に混入してしまう老廃スクラップを使用する場合は、銅比率を何%まで許容できるか、限界を探っていくことになる。現在は、HS、H1、H2等の様々なスクラップの銅比率データに基づいて、製品ごとの原料配合を決めている。

 スクラップに混入するトランプエレメントの低減・コントロールは、スクラップによる高級鋼材製造に当たって重要であり、建物、土木構造物などの建造物の易解体性の向上、スクラップ加工における高品位化の取り組みを進めることが必要である。

 鉄スクラップは、これから鉄鋼生産の中では世界中で原料の主流になっていくことが予測されることから、スクラップの品質を向上することが、将来に向けて極めて重要な取り組み課題であると考えられる。

4-2. 検収による高品質のスクラップ確保の実態

 低品位の鉄スクラップ使用での不純物混入を抑制するために、リサイクル事業者では、ベテランの熟練工が選別・ピックアップを行っているが、高齢化が進み人手不足が課題となっている。スクラップの品質担保を行う検収プロセスでは、専門知識を持った熟練工数名が毎日1,000~2,000tのスクラップを目視でチェックしており、属人的作業でかつヒューマンエラーが免れず、歩留まりロスや生産効率低下が発生している。こうした課題に対応するため、最近では、AIを用いた検収の導入が既に始まっている。

 これまでは、スクラップの品位(不純物の混入濃度)と価格を直接対応づけることができていないため、スクラップを選別するインセンティブが生まれず、現場では、鉄スクラップのかさ増しのために故意に不純物を混入させる等の不適切な振る舞いも散見されたとの指摘もあった。

4-3. 鉄スクラップの利用拡大への課題

 鉄スクラップの利用を大幅に拡大するためには、上述のとおり有効利用の拡大を阻むいくつかの要因があり、これらの阻害要因を取り除くためには克服すべき様々な技術的な課題がある。その技術的、機械システム構成上の主要な課題を整理すると、以下のとおりとなる。

【課題1】 鉄スクラップに混入する異物の選別
 鉄スクラップ回収時に、鉄スクラップの選別を精緻に行わないと他の元素が異物として混入してしまう可能性がある。また、鉄鋼材料は多様な元素を添加して、合金化するため、リサイクルするとそれらの元素が不純物元素として混入してしまい、除去が困難となる。不純物の濃度がある水準を超えるまでに濃化すると、鋼材に悪影響が出て再利用できなくなるリスクが生じる。
 リサイクル材の不純物濃度を下げるためには、高炉銑での希釈や素性の知れた鉄スクラップでの希釈が必要となるが、希釈には量的に限界があり、また、希釈に頼るとより多くの高炉銑等の精製や輸送に伴う環境負荷増大の要因にもなる。そのため、鉄スクラップの高度な選別技術の開発や不純物元素(トランプエレメント)の抑制により、鉄スクラップを高品位化することが必要である。

【課題2】 鋼材種等判別
 日本の鉄鋼業の強みでもある高級鋼材(例えば、ハイテンや電磁鋼板)の生産では、微量であっても特性に影響を及ぼす不純物の混入リスクのあるスクラップを利用することは困難であった。
 現行のリサイクルシステムでは鉄スクラップとして他の鋼材種と区別されることなくリサイクルされている場合があるが、スクラップ原料の素性が明確なスクラップであれば所内発生の端材と同様に扱うことができ、元の鋼材品種に繰り返し使用(水平リサイクル)することが可能となる。
 スクラップ原料の素性を明確化すれば、高級鋼材中の高Mnや高Siの合金成分を有効利用するという点でも貢献が期待される。

 上記の【課題1】【課題2】に対応するためには、鉄スクラップに対して成分別(合金別)に選別を高速かつ精度よく行うための革新的な鉄スクラップ選別システムの開発が必要となる。

【課題3】 鉄スクラップの高品位化(化学組成、グレード推定)
 今後、さらに鉄スクラップの利用拡大を進めていくためには、一定の選別精度で回収したスクラップ原料を溶解した際の平均化学組成を推定し、選別後の再生資源からどのグレードの製品が作れるかを判断し、高品質な再生素材を生産するために必要なシステム技術も必要となる。

【課題4】 コンベア選別技術による鉄スクラップのソーティング(システム構成上の課題)
 鉄スクラップによる高級鋼板の生産を進めていく上で、現状のプロセスでは、そのサイズや質量の大きさから、鉄スクラップの大半はコンベアでの処理が困難であった。そのため、トラックで搬入される20t単位のスクラップを一挙に荷下ろすダンピングや、巨大なマグネットでの荷下ろしにより処理されてきた。
 その結果、現状では精緻な選別は困難であり、積荷表面のみの目視でのチェックに留まってきた。この大雑把な検収ではスクラップの価値を正しく定めることができず、品質と価格を対応づけることができなかったため、スクラップを選別するインセンティブが生まれていない。スクラップの品質を的確に定量化し、高品位なスクラップほど高価に買い取られる市場を構築するためには、搬入されるスクラップを、業務効率を落とすことなく、パーツごとに解析し精緻に品質を分析して選別する必要がある。

4-4. 選別システムの開発課題

 第5~8章では、上記の課題解決に向けた選別システムの望ましい姿を示し、技術開発、システム開発の方向性について議論した結果をとりまとめる。前節「4-3.鉄スクラップの利用拡大への課題」に記載した課題ごとに整理すると、以下のような技術開発、システム開発が必要となる。

【課題1】 鉄スクラップに混入する異物の選別(第5章)
 [1-1]前処理段階で不純物を除去するためのAI技術
 - 上流側(シュレッダー前段階)でラフに質の判別を行う技術
 - 複数素材が混在する廃棄物に対して木くずや金属等の素材別に高精度に自動判別する技術
 [1-2]異物を排除するためのソーティングシステム技術

【課題2】 鋼材種等判別(第6章)
 [2-1]ヘビー・スクラップを合金別に識別する画像認識技術(鉄スクラップの高度選別技術)
 [2-2]鉄の合金ではないもの、鉄鋼材自体の合金種を選別、分離する技術
 [2-3]ハイテン等の高級鋼を選別するためのソーティングシステム技術
 [2-4]Cu濃度の高い鋼材を排除するためのソーティングシステム技術

【課題3】 鉄スクラップの高品位化(化学組成、グレード推定)(第7章)
 [3-1]画像認識を用いたAIによる検収技術・システム(鉄スクラップへの不純物の混入を制御)
 [3-2]厚み、サイズ、鋼種、成分値等のスクラップ解析・評価技術
 [3-3]鉄スクラップの化学成分の同定システム技術
 [3-4]熟練工の思考回路を模範としたグレード判定AI

【課題4】 コンベア選別技術による鉄スクラップのソーティング(システム構成上の課題)(第8章)
 [4-1]コンベアで運搬される鉄スクラップを解析する画像認識技術(物品の形状、色等の検出)
 [4-2]鉄に覆われて露出されない不純物に対する画像認識技術
 [4-3]露出する不純物に対する画像認識技術
 [4-4]不純物検出AI(人工的データセットによる補完技術)
 [4-5]AIの画像認識をコアとするシステム技術

第5章 鉄スクラップに混入する異物の選別

5-1. 開発の方向性

 鉄スクラップを品種別(棒鋼、厚板、鉄筋、形鋼、線材 等)に選別する前段階として、鉄スクラップに混入する異物(特にトランプエレメントと、爆発物、プラスチックやゴム製品といった可燃物、油脂等の、製鋼における操業上の禁忌物)を高精度・高効率に選別し、意図しない不純物元素の混入源を排除する必要がある。

 また、電炉における高級鋼製造ニーズに応えるべく、スクラップの回収、加工の各段階での分別・選別を強化することによって、スクラップを高品位化(不純物混入が少なく、高度な加工や選別によって不純物混入割合を保証できるスクラップ)することが求められる。
 高級鋼の製造において求められる不純物が少ない高品位のスクラップを供給するためには、シュレッダーでの破砕サイズの小粒化、ギロチンシャーでの切断長を短尺化することにより、不純物を分離しやすくすることが期待される。また、粉砕段階では、スクラップ表面の汚れ・塗装・メッキ等が除去されることが望ましい。

 例えば、廃自動車の場合、シュレッダーで破砕した後、磁力選別や粒度選別、比重選別など高性能な設備で素材を細かく選別し、最終的には、長年培ってきた経験と技術、ノウハウを有するスタッフが人力で選別・検品して品質を高めている。このスタッフが人力で行っている工程に、第8章で述べた先端的な選別システムを導入することを目指して、必要な技術およびシステムの開発を進める必要がある。

 コスト面では、シュレッダーを用いて高品位スクラップを製造するためには、選別コストや、発生するシュレッダーダストの処理コスト等が増加することとなるため、高品位鉄スクラップへの適切な価格転嫁が求められる。

 一般にヘビー・スクラップの等級がH2、H3、H4の順に厚さが薄くなるほど選別が難しくなるが、シュレッダーにかけることで単体分離が促進される一方、鋼片の一つの辺がかなり小さなものになるため分析結果の代表性に対する信頼性の担保が難しくなる。
 また、シュレッダーにかける厚みが薄い鉄スクラップと、H鋼やコラム(大径角形鋼管)といったバルクサイズが大きい鋼材系のスクラップでは、それぞれに対応するために異なる選別システムの開発が必要となる。

5-2. 開発課題に対するアプローチ

【課題1】 スクラップ中の異物を選別/排除に対する開発課題
[1-1]前処理段階で不純物を除去するためのAI技術
– 上流側(シュレッダー前段階)でラフに質の判別を行う技術
– 複数素材が混在する廃棄物に対して木くずや金属等の素材別に高精度に自動判別する技術
[1-2]異物を排除するためのソーティングシステム技術

 分離システムでは、スクラップをシュレッダーで破砕する前段階で、ある程度の質を把握できるか否かによって、その後の工程での要求仕様を検討する上での様々な条件に違いが出てくる。

(ゼンロボティクス社の事例)
 ゼンロボティクス社(ZenRobotics;フィンランドのロボットベンチャー)では、ディープラーニング技術を駆使し、同社のZenRoboticsヘビーピッカーは、特定の特徴に基づいて銅、真鍮、ステンレス鋼、アルミニウム、亜鉛などの金属物体を識別することができる。さらに、このプロセスは電気モーター、ワイヤー等の特定の対象物を識別するように学習することが可能である[12]。

 日本でも、埼玉県深谷市に所在の(株)シタラ興産という選別処理を行う企業がこの装置(大型ロボット)を導入している。性能については、人力(手選別)によるベルトコンベアの限界速度10cm/秒の12倍の120cm/秒となっており、最大で幅50cm、質量20kgまでの廃棄物を把持することができる。平均5kgの廃棄物を選別した場合、1本のロボットハンドで最大10t/時間程度の選別が可能であり、今後さらに大きな物や重量物を把持できるようになる[13]。

 シタラ興産のようにAI技術を活用したプロセスで選別作業を行う企業の施設は、最近は国内でも導入されている例が散見される。世界ではAI技術を用いたスクラップ選別技術の開発や実証が進んでおり、例えば、中国の用友網絡科技股份有限公司は、AI、IoT、データ通信等の最先端技術を利用し、電炉製鋼の原料である鉄スクラップの入荷時に等級判定、忌避物の検出とアラート発信を自動処理できるシステムを2021年から実用化している。

第6章 鋼材種判別

6-1. 開発の方向性

[1] 鉄スクラップの品種別選別
 鉄スクラップの品位を高めるには、図4に示した通り、鉄スクラップをできるだけ品種別に選別することが効果的である。品種に応じて銅等の不純物元素の濃度、含有量の範囲があらかじめ推定できるため、鉄スクラップを溶解した後の不純物等の成分値が予測でき、最適配合によって高級鋼板が生産可能となる成分調整が容易になる。

[2] 鉄鋼の合金別選別(ハイテン、ステンレス等)
 選別システム技術を構築し高度化開発を行い、ヘビー・スクラップを画像認識技術により合金別に識別する技術の開発が必要である。

6-2. 開発課題に対するアプローチ

【課題2】 鋼材種等判別に対する開発課題

[2-1]ヘビースクラップを合金別に識別する画像認識技術・センシング技術(鉄スクラップの高度選別技術)
[2-2]鉄の合金ではないもの、鉄鋼材自体の合金種を選別、分離する技術
[2-3]ハイテン等の高級鋼を選別するためのソーティングシステム技術
[2-4]Cu濃度の高い鋼材を排除するためのソーティングシステム技術

 鉄スクラップの選別、分離については、何を目的とした工程を対象にするかを明確にしなければならない。そういう意味では、以下の2種類に大別できる。

[1] 銅やスズのように、いわゆる鉄の合金ではないもの、モーターや銅線などの多素材の混入を防ぐ工程
[2] 鉄鋼材自体の合金種としてアロイとして入っているものを選別する工程

 上記の工程において検出された不純物の自動除去、合金毎の選別(ハイテン等の高級鋼を選別)、銅の混入を抑制するための銅濃度の比較的高い鋼材や異物の排除を効率的に行うためのソーティングシステム技術を開発する。

(ハリタ金属(株)等の事例)
 ハリタ金属(株)等では、LIBS(レーザ誘起ブレークダウン分光法;Laser Induced Breakdown Spectroscopy)を選別用のセンサーに用いて、アルミニウム合金を、合金別に選別するシステムについて、実際の実数量での検討が行われたことがある。選別システム投入前の処理をするかしないかで、選別の精度が大きく変わってくるという報告もある。

第7章 鉄スクラップの高品位化(化学組成、グレード推定)

7-1. 鉄スクラップの品質を巡る課題

 ヘビー・スクラップは、日によってグレードに違いが生じ、品質が安定しないが、現場では、不純物の混入量が許容値を超えて大きな損害を出すことを回避するため、不純物の混入量を許容値に対して安全側に設定して処理を行おうとするマインドになる傾向がみられる。こうした課題の解決のため自動識別技術の導入が期待される。

7-2. わが国が目指すべき鉄スクラップの「高品位化」

 本節では、鉄スクラップの高品位化への対応に必要となる化学組成、グレード推定に関する開発課題の説明に入る前に、今後、選別システムを導入することで我が国が目指すべき鉄スクラップの品質の向上における「高品位」なスクラップとは具体的にどのようなスクラップであるのかという点に関して解説する。

 現状では、「高級鋼」に対する学術的、定量的な定義は存在せず、規定もない。本報告書では、現在国内で一般的に転炉によって生産されている「需要家に対して性能を保証した上で供給される鋼材」を便宜的に「高級鋼」と表記する(図7-1を参照)


7-1 高級鋼に関する概念図[14]
カーボンニュートラルを踏まえた我が国金属産業の持続的発展に向けた
調査事業報告書 p.6、日鉄総研より転載

 すなわち、「製造者側で需要家における使用環境、設計施工までを考慮し、ばらつきを含めた材料特性を保証する鋼材商品」を生産することができるスクラップが、高級鋼製造に求められるスクラップということになる。

 高級鋼の製造において求められるスクラップは、(i) 不純物が少ないスクラップであり、発生源が明白であり、成分値を把握することが容易な加工スクラップ、(ii) 高度な分別管理をして成分を一定担保できる一部の老廃スクラップが該当し、本報告書では、これら(i)(ii)を「高品位スクラップ」として定義している。
 なお、中国では、国家標準GB/T4223-2017の品質的要求を満たすスクラップを高品位スクラップと定義している。

 このような鋼材に対しては、製造者側の責任において、トランプエレメントと称される銅やスズ等の成分を含めた化学成分の設計から製造プロセス設計を経て性能保証を行うことになるが、この場合、予期せぬ不純物の混入による性能低下は許容されない。特に、銅の混入が品質上の問題となる。

 スクラップ電炉で上述のような高級鋼を製造する場合、スクラップの選別段階で不純物を除去してトランプエレメントのばらつきを抑え、成分を一定のレベルで保証できるようなスクラップを使用する必要がある。
 スクラップの品質を的確に定量化し、高品位なスクラップほど高価に買い取られる市場を構築するためには、搬入されるスクラップを、業務効率を落とすことなく、パーツごとに解析し精緻に品質を解析する必要がある。2050年CNに向けては、鉄スクラップの利用拡大は避けて通れない対応課題であるため、鉄スクラップの高度選別技術の開発が不可欠である。

7-3. 開発課題に対するアプローチ

【課題3】 化学組成、グレード推定に対する開発課題
[3-1]画像認識を用いたAIによる検収技術・システム(鉄スクラップへの不純物の混入を制御)
[3-2]厚み、サイズ、鋼種、成分値等のスクラップ解析・評価技術
[3-3]鉄スクラップの化学成分の同定システム技術
[3-4]熟練工の思考回路を模範としたグレード判定AI

 鉄スクラップの高品位化への対応に必要となる技術を組み合わせ、鉄鋼製品の品質等に影響を及ぼす不純物の混入割合が従来の半分以下であって、混入する土砂等の非鉄量を定量化しつつ、処理される鉄スクラップの化学成分値の同定により鉄スクラップ価値を定量化可能なシステムを開発することが有用であると思われる。

 亜鉛メッキや汚れの強いスクラップに対しては、画像認識により、鋼材形状を元にした鋼種判定を行い、双方の結果を機械学習モデルへ入力することで精緻なスクラップの成分値予測を行うことが可能となる。

第8章 コンベア選別技術による鉄スクラップのソーティング(システム構成上の課題)

8-1. 鉄スクラップの高品質化実現のための選別システムの要求仕様

 本フォーラムでは、前章までの鉄スクラップを巡る現状と、鉄スクラップの有効利用拡大を阻む要因と対応課題を踏まえ、鉄スクラップの品質向上を実現するための先端的な選別システムの望ましい姿、開発の方向性について、今後の社会実装も念頭に置いて検討を実施した。

(選別システムの要求仕様)
[1] 目標値
– 時間当たりの処理量:目視でのチェックと同等またはそれ以上の処理能力
– 忌避物質の判定精度:ほぼ100%で判定可能なスクラップ解析AI技術

[2] 開発内容
[1]ヘビー・スクラップを合金別に識別する画像認識・センシング技術
[2]ハイテン等の高級鋼を選別するためのソーティングシステム技術
[3]コンベアで運搬される鉄スクラップを解析する画像認識技術
ほか

[3] 鉄スクラップ選別システムの目指す役割(イノベーションの達成目標)
 画像認識を用いた高精度・高効率な鉄スクラップ検収システムを構築することにより、ヒューマンエラーにより想定以上の不純物が混入することによるチャージアウトの半減実現を目指す。

[4] 鉄スクラップ選別システムの必要な処理能力(処理速度)
 鉄スクラップの選別では、実用レベルの処理能力は、アルミ等の他素材より圧倒的に速い選別速度でのオペレーションが要求される。鉄スクラップでは、トラックで20t単位のスクラップが搬送されてきて一度に荷下ろしを行うダンピングや、巨大マグネットで荷下ろしにより処理される物流量への対応が必要となる。その結果、ヒトの目視では精緻な検収は困難であり、かつ積荷表面のみの目視でのチェックに留まってきた。この大雑把な検収に依存する限り、スクラップの価格を正しく設定することは難しい。このように、これまでは、スクラップの品質と価格を対応づけることができなかったため、スクラップを選別するインセンティブが生まれていない。


図8-1 先端的な選別システム(イメージ図)

8-2. ベルトコンベア方式の選別システムの採用

 本フォーラムでは、こうした課題に対応する方策を検討し、コンベア選別技術により鉄スクラップを精緻に選別するためのシステムの開発に向けたアプローチに関して議論した(図8-2を参照)


図8-2 ベルトコンベア方式の選別システム

8-3. スクラップ選別システムに求められる基本性能

[1] ベルトコンベアとセンサーの組み合わせ(全スクラップ鋼片を選別)
 コンベアで運搬される鉄スクラップを解析する画像認識・センシング技術を利用するセンサー選別システムを構成することが有効であると考えられる。

[2] 選別センサーと成分分析手法
 一般的に選別対象によって選択するセンサーは異なるが、鉄スクラップへの不純物の混入を制御するためには、鉄スクラップAI検収システムの開発が必要となる。
 特に、スクラップ分野に特化して、(i)熟練工の思考回路を模範としたグレード判定AIの構築、(ii)データ収集が困難な不純物検出にAIを活用するために人工的なデータセット作成によるデータ不足補完が必要となる。

 また、画像認識で異物検出、合金別に認識するには、膨大な画像情報(1万点以上)をAIに教え込む必要がある。合金別の分類はアルミスクラップではLIBSを使って選別する手法が開発されているが、レーザを当てる焦点をスクラップ表面に正確に調整することが必要である(図8-3を参照)
 選別システムが高価になれば、メンテナンス費も高価となり、現場に普及しにくくなるという課題がある。これらの課題を回避するにはAIの画像認識をコアとする技術システムが有効と考えられる。

図8-3 ベルトコンベア方式のLIBS選別システム[15]
カーボンニュートラルを踏まえた我が国金属産業の持続的発展に向けた
調査事業報告書 p.50、日鉄総研より転載

第9章 選別システムの開発と並行して進めて行くことが大切な課題

9-1. 鉄スクラップ規格の標準化

 鉄スクラップ規格は、これまで日本鉄源協会が定める規格を参考にして、各社が自社独自の検収ルールを策定して定められてきた。その結果、全く同じスクラップに対しても、各社ごとにその査定は異なり、市場での取引価格に相違が生じている状況である。
 各社の独自ルールは経年と共に細かなルールが継ぎ足され、現状では熟練工でもすべてのルールを把握しきれず、同じスクラップに対して同じ工場の熟練工が査定する場合であっても、人によって査定、判断の結果に違いが出る状況もみられる。その結果、スクラップの取引が不安定になる状況もみられる。
 最終的には、鉄スクラップの品質を高める視点から、鉄源協会、JIS等の鉄スクラップの規格をリサイクルを考慮した改定を行うことによってどのような効果や影響が生じるのか等を関係機関(日本鉄源協会、企業等)間で十分に調整することが必要となる。

9-2. 静脈産業と動脈産業との間での情報連携

 前節に記載した外国資本等による高品質の鉄スクラップの海外流出への対応方策として、鉄スクラップのサプライチェーン全体において、いわゆる動静脈の連携(静脈産業と動脈産業との間での情報連携)を強化することによって、選別された高品位のスクラップの国内での流通の適正化につなげることが期待できる。
 
 本フォーラムで検討を行った技術開発、システム開発と、上記の動静脈における情報連携の強化が相まって、わが国が目指すべき鉄スクラップの「高品位化」の実現がより確かなものとなることを期待したい。

第10章 まとめ

 本フォーラムでは、鉄スクラップを巡る現状と、鉄スクラップの有効利用拡大を阻む要因と対応課題を踏まえ、鉄スクラップの品質向上を実現するための先端的な選別システムの望ましい姿、開発の方向性について、今後の社会実装も念頭に置いて検討を実施した。
 具体的な開発課題として、[1]鉄スクラップに混入する異物の選別、[2]鋼材種判別、[3]鉄スクラップの高品位化への対応に必要となる化学組成、グレード推定に関する必要技術、[4]センサー選別技術による鉄スクラップのソーティングを取り上げ、それぞれの技術・システムの開発の必要性と方向性について議論した結果をとりまとめた。
 鉄スクラップの高品位化を実現するシステムとして、画像認識技術とソーターを組み合わせたコンベア運搬における鉄スクラップの選別システム開発の必要性と開発課題を示した。
 本フォーラムで検討を行った技術開発、システム開発に加えて、前章に記載した静脈産業と動脈産業との間での情報連携の強化につながるアクションの必要性についても、改めてここに示しておきたい。 高品位化へのニーズが高いと思われる鉄鋼メーカと大学が、本フォーラムの議論を集約して、詳細な鉄スクラップ選別システムの最適な仕様の策定に向け、現実的・実効性があるか、その選別システム導入により、鉄スクラップの新たな規格を作れるか等の視点からの検討を進めてはどうか。

<参考文献>

[1] 2021年度(令和3年度)温室効果ガス排出量(確報値)について(概要)
環境省脱炭素社会移行推進室、国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス, 2023.4
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2023/20230421-attachment01.pdf

[2]カーボンニュートラル行動計画報告 産業構造審議会 鉄鋼WG報告資料;
一般社団法人日本鉄鋼連盟https://www.jisf.or.jp/business/ondanka/kouken/keikaku/documents/tekkowg_ppt1_20240214.pdf

[3] 日本製鉄 カーボンニュートラル ビジョン2050、p19, 日本製鉄株式会社 2021.3
https://www.nipponsteel.com/ir/library/pdf/20210330_ZC.pdf

[4] 礒原豊司雄:第233・234回西山記念講座,日本鉄鋼協会,東京,(2018), p.7
https://www.jisf.or.jp/business/lca/reference/documents/201805_nishiyamakinen_jisf.pdf

[5] 鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について、経済産業省 2023.9
第18回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 資料https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/energy_structure/pdf/018_04_00.pdf

[6] 「製鉄プロセスにおける水素活用」プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画、2021.9 経済産業省製造産業局
https://www.meti.go.jp/press/2021/09/20210914002/20210914002-2.pdf

[7] 鉄スクラップの輸出による国内鋼材の品位変化に関する考察、藤巻大輔、五十嵐佑馬、醍醐市朗、松野泰也、足立芳寛、鉄と鋼 Vol.92(2006) No.6

[8] 鉄スクラップ検収統一規格、(社)日本鉄源協会,2008
https://www.jisri.or.jp/recycle/specification.html

[9] 世界及び主要国の鉄鋼蓄積量から推計した2030年の老廃スクラップ発生ポテンシャル、林 誠一、(株)鉄リサイクリング・リサーチ、2016 調査レポート NO.38

[10] 令和3年度産業経済研究委託事業カーボンニュートラルを踏まえた我が国金属産業の持続的発展に向けた調査事業報告書、日鉄総研、2022.2

[11] 日本製鉄 カーボンニュートラル ビジョン2050、p20、日本製鉄株式会社 2021.3
https://www.nipponsteel.com/ir/library/pdf/20210330_ZC.pdf

[12] ZenRobotics introduces scrap metal sorting robot、KELLY MAILE, 2019
https://www.recyclingtoday.com/news/zenrobotics-introduces-scrap-metal-sorting-robot

[13] 廃棄物処理先進事例調査, CleanLife, 2017.3

[14] 令和3年度産業経済研究委託事業カーボンニュートラルを踏まえた我が国金属産業の持続的発展に向けた調査事業報告書 p.6、日鉄総研、2022.2

[15] 令和3年度産業経済研究委託事業カーボンニュートラルを踏まえた我が国金属産業の持続的発展に向けた調査事業報告書 p.50、日鉄総研、2022.2

以上

©2024 一般財団法人 機械システム振興協会
転載や複製等により使用する場合は、ご連絡ください。

〒105-0012
東京都港区芝大門1丁目9番9号 野村不動産芝大門ビル9階
<contact>はこちらからお願いします