【連載】しゅんぺいた博士の破壊的イノベーター育成講座(第3回)

第3回 イノベーションを通じたコスト競争力の向上とイノベーションのスピードの重要性

 前回は、企業の競争力には差別化とコスト・リーダーシップの2種類があることと、イノベーションを通じた差別化戦略についてご説明しました。
 今回は、イノベーションを通じたコスト・リーダーシップの獲得と、イノベーションを起こす速度が企業の競争力に与えるインパクトについて解説します。

1. コスト・リーダーシップによる競争力とは

 コスト・リーダーシップは、他社と同様の製品やサービスを供給していても、そのコストを他社よりも下げることによって、他社と同じ価格で製品を販売してもより多くの利益を得られるようになる、というもので、「コスト競争力」とも呼ばれます。

2. ビジネス・プロセス・イノベーションを通じたコスト競争力の向上

 コスト競争力を獲得するにはどうしたらいいか、考えてみましょう。
 最初に思いつくのは、QC活動(Quality Control:品質管理に関わる活動)やロボットの導入などによるビジネス・プロセスのイノベーションを通じたコスト競争力の向上でしょう。多くの企業では生産性を向上させ、コストを引き下げるために、常にビジネスのプロセスを見直してビジネス・プロセス・イノベーションを起こし続けています(図1の③)。


図1 イノベーションを通じたコスト・リーダーシップの獲得(③④)
(注)図中の①②は、前回のコラムで解説しました。

3. プロダクト・イノベーションを通じたコスト競争力の向上

 コスト競争力を得るためのもう一つの方法は、実は設計段階に隠されています。一説には、製造コストの7割は設計段階で決まると言われており、作りにくい設計をしてしまった製品は、そのあと現場の製造プロセスでいくら改善活動をしても、製造コストの残り3割の部分にしか影響を与えられないため、コスト低減効果には限りがあるのです。
 例えば、あるメーカーでは、レーザプリンタのシャーシ(枠組み)を金属に多数の部品をねじ止めして製造していました。ところが、同じシャーシの形状をエンジニアリングプラスチックの射出成形で作れるように「設計変更」したところ、製造コストの劇的な低下が可能となりました(図1の④)。
 このように、設計段階で製造コストの低減を考慮して設計する「デザイン・ルール」を定めておくことは、コスト競争力の獲得に大変有効なのです。
 これはプロダクト・イノベーションを通じたコスト競争力獲得の事例です。

4. イノベーションの速度を他社より速くすることによる競争力の向上


図2 赤の女王はイノベーションの本質を見切っていた!
(出典:ティッド、ベサント、パビット著『イノベーションの経営学』NTT出版)

 この、赤の女王のセリフにもあるように、他社と同じスピードで製品やサービス、ビジネスプロセスのイノベーションを起こしているだけでは、他社に比べて競争優位を得る事はできません。他社が4年に1度自動車のフルモデルチェンジをするのであれば、 自社ではコンピューターを利用した設計や、サプライヤーとの共同開発、コンピューターシミュレーションの活用などによって、3年に1度のペースで自動車のフルモデルチェンジができるような能力を磨かなければ、他社よりも競争で優位に立つことはできないのです。
 逆に、同じ時期に製品やサービスのアイディアを思いついたとしても、他社よりも早く市場に投入できれば、①「○○なら××社」といったブランドイメージの確立、②発売してから他社が類似製品を出すまでの独占状態を活かした価格決定権と高い利益の獲得、③いち早い製造コストの低減によるコスト・リーダーシップの確立、④他社より早く顧客からのフィードバックを得てのプロダクトを改良、⑤他社がやっと一号機を出したときには初期コスト回収済なので廉価版を投入してシェアを拡大、など多くのメリットを得ることができるのです。

参考文献
玉田俊平太「日本のイノベーションのジレンマ第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ」、翔泳社、2020年

これまでのコラム

第1回 イノベーションは「新結合」でも「技術革新」でもありません!
第2回 「競争力」は何種類?

筆者紹介 玉田 俊平太(たまだ しゅんぺいた)

関西学院大学専門職大学院 経営戦略研究科長・教授
博士(学術)(東京大学)
筆者紹介の詳細は、第1回をご参照ください