【連載】しゅんぺいた博士の破壊的イノベーター育成講座

第1回 イノベーションは「新結合」でも「技術革新」でもありません!

1.イノベーションは何のため?

 「イノベーション・バイ・ケミストリー」(東レ)、「バリュー・フロム・イノベーション」(富士フイルムグループ)など、多くの企業がイノベーションを自社のスローガンに掲げて目指しています。なぜでしょう?
 それは、企業はイノベーションによって①競争優位を得ることができるとともに、②周辺環境の変化に適応することができるようになるからです。
 本連載では、読者の皆さんに、企業の生き残りのために死活的に重要な「イノベーションのマネジメント」について学んでいただくことで、皆さんひとりひとりが破壊的イノベーターとなり、機械システム業界をはじめとする我が国産業の一層の活性化を図ることを目的としています。しばらくの間、お付き合いください。

2.イノベーションは何と訳す?

 さて、多くの企業が目指す「イノベーション」ですが、企業のメンバーに「イノベーションとはどういう意味ですか?」と尋ねると、ある方は「新結合だ!」と答え、別の方は「技術革新だ!」と言われ、また別の方は「世界初の技術で社会を変えないとイノベーションではない!」とのたまい、十人十色の答えが返ってきて収拾が付きません。
 このように、企業が目標として掲げている言葉「イノベーション」の意味が、社員の間で統一的に理解されていないようでは、およそイノベーションの成功などおぼつきません。
 そこで、連載第1回目では、イノベーションという言葉の正しい理解を目指しましょう。

2.1. イノベーションの語源は「何かを新しくする」こと

 「イノベーション(innovation)」という英語は、「イノベート(innovate)」という動詞の名詞形です。そして、「イノベート」の語源はラテン語の「インノバーレ(innovare)」です。この「インノバーレ」という言葉の中には「in(〜の中を)」、「nova(新しい)」という単語が入っています。ですから、「イン・ノバーレ」とは「(何かの)中を新しくする」という意味です。
「イノベーション」はその名詞形ですから、「何かを新しくすること」というのが本来の意味です。

2.2. イノベーション活動の訳は「創新普及」が適切

 さて、イノベーションに関する国際標準指針である「オスロ・マニュアル2018」によれば、企業のイノベーションは「プロダクト・イノベーション」と「ビジネス・プロセス・イノベーション」からなるとされています。

 先ほど私たちは、イノベーションは語源から考えると「何か」を新しくすることであると学びましたが、企業が提供する「製品やサービス」を新しくすると「プロダクト・イノベーション」になり、自社の「ビジネスプロセス」を新しくすると「ビジネスプロセス・イノベーション」となるのです。
 著名なイノベーション研究者であるパビットは、 イノベーションを「(技術や市場などの)『機会』を新しい(製品やサービスやプロセスの)『アイデア』へと転換し、さらにそれらが『広く使われるようにする』過程」であると述べています。
 イノベーション活動の第一段階は、顧客が叶えたいと思っているが、何らかの制約によって出来ずにいる「ジョブ(用事)」を見出し、それを解決するソリューションを考え出し、それを実現する為に社内や社外の技術をオープンに統合し、提供すべき新しい「製品」や「サービス」、「ビジネスプロセス」のアイデアへと変換するのです。
 イノベーション活動の第二段階は、こうして産まれた新しい製品やサービスやプロセスを、適切な価格やビジネスモデルを選び、各種マーケティング手法なども駆使して広く普及させていくことです。
 私は、この一連のイノベーションの複雑な過程を日本語に訳すのに、新しいアイデアを生み出す「創新」という言葉と、それを顧客に広く受け容れてもらう「普及」という言葉を組み合わせ、「創新普及(イノベーション)」としてはどうかと提唱し、多くの方からご賛同をいただいています。

 いかがでしたでしょうか? 最初ですので言葉の定義をしっかりしておかなければならず、やや堅苦しくなってしまいましたが、お楽しみいただけたとしたら幸いです。

 さらに勉強を深めたい方には、拙著『日本のイノベーションのジレンマ第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』をお近くの書店等で手に取ってみてください。
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筆者紹介 玉田 俊平太(たまだ しゅんぺいた)

関西学院大学専門職大学院 経営戦略研究科長・教授
博士(学術)(東京大学)

ハーバード大学大学院にてマイケル・ポーター教授のゼミに所属するとともに、クレイトン・クリステンセン教授から破壊的イノベーション理論の指導を受ける。
筑波大学専任講師、経済産業研究所フェローを経て現職。
研究・イノベーション学会評議員。日本知財学会会員。元日経ITイノベーターズ会議アドバイザリーボードメンバー。Re-Innovate Japanアドバイザリーボードメンバー。
平成23年度TEPIA知的財産学術奨励賞会長大賞受賞。
著書に『日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(翔泳社、2015年)、『イノベーション政策の科学:SBIR政策の評価と未来産業の創造』(東京大学出版会 、2015年)、『産学連携イノベーション―日本特許データによる実証分析』(関西学院大学出版会、2010年)等、監訳に『イノベーションのジレンマ』(翔泳社、2000年)、『イノベーションへの解』(翔泳社、2003年)等がある。