令和7年度イノベーション戦略策定事業 成果概要「GX-AMプロセス開発に関する戦略策定」【サマリー】

委託先団体: 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター

 「GX-AM(環境対応型付加製造)プロセス開発に関する戦略策定」では、樹脂を中心とした付加製造(Additive Manufacturing:AM)について、環境対応フィラの活用による材料使用量削減(リデュース)、造形後粉末の劣化抑制と再利用率向上(リユース)、リサイクルといった3Rに関わる技術課題に対する対応方策、循環型ものづくりを実現する3Dプリンタ戦略を2026年6月にとりまとめました。
 金型を必要としない造形プロセスであり次世代ものづくりのゲームチェンジャーとして期待されているAMの導入は、自動車を始めとする産業全体にとって大きなメリットになると考えられます。欧州ELV規制の動きのみならずサーキュラーエコノミー構築への関心の高まりを踏まえれば、樹脂部品の再利用・再資源化の促進は、AM導入のハードルを下げる効果があります。
 AMが変えるこれからのものづくりの実現に向けた研究開発の方向性、自動車向けを中心とする補修部品から将来の樹脂部品製造への展開に至る導入シナリオと市場戦略を策定しました。

1.事業概要

 本事業は、樹脂の粉末床溶融結合(PBF)方式を対象として、従来は主に性能向上を目的として発展してきた付加製造(AM)について、材料の削減(Reduce)、再利用(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3Rの観点から環境負荷低減と社会実装の両立を図るGX-AMの実現に向けた戦略策定を目的としている。具体的には、環境対応フィラの適用、造形後粉末の再利用率向上、造形物のリサイクルといった材料循環に関する技術的課題を精査するとともに、自動車部品を主な適用先とした市場性評価、コストおよび環境負荷の整理、サプライチェーン構築の方向性検討を行った。これらの検討を通じて、AMを循環型ものづくりへと転換するための技術課題と社会導入シナリオを検討した。

2.事業の目的

2-1. 本テーマの背景・必要性

 カーボンニュートラルおよび循環型社会の実現に向けて、従来の大量生産モデルで問題となっている金型製作、在庫保管、廃棄、輸送などに伴う環境負荷に対し、AMはオンデマンド生産を可能とし、これらの課題解決に寄与する技術である。一方、現状のAMでは、石油由来樹脂の使用、造形時に部品とならなかった粉末の劣化による再利用率の低下および余剰粉末の廃棄、造形物のリサイクル未対応といった特有の問題を抱えている。このため、材料循環を前提としたAM技術の確立が必要である。

【図1】 現状の樹脂PBFの材料循環

【出典】東京都立産業技術研究センター 事務局(以降、「事務局」という。)が作成

2-2. 社会導入・事業化を狙う対象領域

 自動車用樹脂部品を中心に、従来工法では金型コストや在庫負担が大きい領域を対象とする。特に設計自由度や少量多品種生産のニーズが高い領域におけるAMの適用を視野に入れる。これらの分野において、AMによるオンデマンド生産と材料循環型サプライチェーンの構築を目指す。本検討で整理した技術要素は、試作、治具製作など既存のAM用途にも波及することが期待される。

【図2】 保管されている金型のイメージ

【出典】経済産業省 「素形材企業などの中小受託事業者が型の情報管理を効率的に⾏うための運用マニュアル」 (https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/sokeizai/kata/202512_katamanuel.pdf)より抜粋

2-3. イノベーションの目指す姿

 環境対応フィラの活用による石油由来の樹脂使用量削減、造形後粉末の再利用率向上、造形した部品のマテリアルリサイクルを組み合わせた材料循環型のGX-AMプロセスを確立し、材料消費量およびCO2排出量の低減を実現する。これにより、サプライチェーン全体における材料消費量およびCO2排出量が低減されるとともにAMの経済性が改善され、AMが持続可能なものづくり基盤技術として社会に定着する。

【図3】 樹脂PBFの材料循環の目指す姿

【出典】 事務局が作成

3.事業の内容(実施事項)

3-1. 市場・ユーザのニーズ・評価を捉えるための実施事項

 本事業では、AMの社会実装に向けた前提条件として、市場およびユーザニーズの把握を実施した。具体的には、自動車産業を中心とした製造業における部品生産の実態を整理し、製造工程における環境負荷の発生要因や材料利用の実態を把握した。また、欧州におけるELV規制などの動向を踏まえ、今後の製品設計および材料選択においてリサイクル性や再生材利用が求められることを確認した。さらに、展示会調査や技術動向調査を通じて、環境対応材料やリサイクル技術の開発状況を調査し、AMにおける環境対応技術の位置づけおよび今後の発展方向を整理した。

3-2. 技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題への対応、目標達成のための実施事項

 本事業では、樹脂PBF方式における材料循環の実現に向けて、材料削減(Reduce)、再利用(Reuse)、リサイクル(Recycle)の各観点から現状の技術的課題の整理と研究開発の方向性について検討した。

(1)Reduce:石油由来の材料使用量削減のためのフィラ添加においては、環境性能の高いフィラを使用することが想定される。このとき、フィラの分散状態や粒子特性が粉末流動性および粉末床形成性に影響し、造形品質の低下を招く可能性がある。本事業では、セルロースおよびタルク等のフィラを対象として、添加方法ごとに粉体特性や造形のしやすさといった観点で評価し、開発の方向性について検討した。

(2)Reuse:造形後粉末の再利用率を低下させる要因が不明であるため、まずは様々な条件で造形した場合の粉の特性の変化を詳細に調査した。さらに、特性変化の調査結果に基づいて再生方法を選定し、再生処理による粉末の特性および造形への影響を検討した。

(3)Recycle:造形物を破砕し、再度造形可能な粉末を取得するための加工プロセスについて検討し、各種加工後に得られた粉末の特性を評価した。さらに試験的に得られたリサイクル粉末を通常の造形用粉末に混合し、造形の挙動や得られた部品の状態について評価することで、リサイクルに向けた課題を整理した。

3-3. 社会導入・事業化に向けた実施事項

 技術的な検討と並行して、材料循環を前提としたAMの社会導入に向け、サプライチェーンの構造および評価・品質管理の枠組みに関する検討を実施した。また、材料再利用およびリサイクルを含むプロセス全体の環境負荷を評価するため、LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づく評価項目および評価手法の整理を行った。

4.主要成果

4-1. 市場・ユーザのニーズ・評価

 自動車分野においても、環境規制の強化および資源利用効率化の要求を背景として、材料循環を前提とした製造プロセスのニーズが高まっていることが確認された。また、昨今問題となっている金型保管の負担軽減に向け、補給部品や旧車部品のように長期的な供給が必要である領域において、特にAMに対するニーズが高いことが分かった。なかでも、電装系のボックスやダクト類といった用途では、現状のAMの品質でも適用可能性があることが確認された。

4-2. 技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題及び達成目標に対して得られた成果

(1)Reduce:フィラ添加による材料使用量削減の検討においては、添加方法の違いが粉体特性および造形適性に大きく影響することが明らかとなった。ドライブレンドによるフィラ添加では、粉体流動性が大きく低下し、安定した粉末床の形成が困難であった。これに対し、コンパウンド処理を適用することで、粉体流動性の向上および安定した粉末床の形成を確認した。一方で、コンパウンド処理によって結晶性や粘度などの樹脂の熱的物性が変化し、造形時の条件設定が困難となるなど、新たな課題も明らかとなった。

(2)Reuse:造形時に部品とならなかった粉末および造形品の包括的な評価により、熱履歴に起因する樹脂の劣化(分子量低下、粘度変化)や粒径分布、粉末形状の変化が、造形時の粉体流動性および溶融挙動に影響を与えることが確認された。これに対し、再生プロセスとしてジェットミルによる粉砕を適用し、粒径分布の調整および粒子形状の均質化を図った。その結果、粉末流動性および粉末床形成性の改善が可能となり、再利用率を高めても部品品質を維持できることが示された。

(3)Recycle:造形後部品を原料とした粉末への加工プロセスとして、粗粉砕および凍結粉砕を基本とした粉砕処理を適用し、粉末特性および造形適性を評価した。粗砕および凍結粉砕により粒径の微細化および粒径分布の制御が可能である一方、得られる粒子は不定形となり、粉体流動性の低下も確認された。これに対し、凍結粉砕後に球状化処理を適用することで粒子形状が改善され、粉体特性の向上が可能であることが示された。また、粗粉砕および凍結粉砕前後における熱的特性の変化は比較的小さい一方で、造形プロセスを経ることによる材料特性の変化の影響が大きいことが確認された。その上で、再生粉末を5%程度混合した条件において、既存粉末と同様に造形可能であることが確認された。

4-3. 社会導入・事業化に向けた課題へのアプローチ、普及戦略

 まずは技術的な残課題および導入の難易度を考慮し、粉末の再利用率向上を中心に据えた社会実装を目指す。粉末の再利用の基本的な構造として、製造拠点内で回収・再生を完結する現場完結型と、複数拠点から回収した材料を集約して再生処理を行う集約型の2つの構成で整理した。ただし、自動車分野への適用を想定した場合、自動車OEMおよび自動車部品メーカーによる部品の品質保証および承認プロセスの存在が、サプライチェーン構築において大きな制約条件となる。特に新技術の導入については、承認の観点から現状のサプライチェーンでは困難であることも明確になった。また、材料循環を前提としたAMをビジネスで活用するためには、再利用や再生処理に伴う材料特性の変動等を適切に管理し、安定的な製造を可能にする必要があることから、標準化の必要性が強調され、国際標準化機関(ASTM等)を起点としたアプローチを整理した。そのほか、LCA(ライフサイクルアセスメント)の検討により、粉末の再利用およびリサイクルの導入がAMの環境負荷低減において優位性を示し、普及を促進する裏付けのデータになり得ることが確認された。

 以上を踏まえ、GX-AMの普及にあたっては、まず承認プロセスへの適合が比較的容易な領域から段階的に適用を進め、標準化による品質保証の枠組みを構築しつつ、LCAによる環境優位性を活用して導入の妥当性を示すことで、適用範囲を拡大していくことが重要である。

5.今後の展開(活動予定)

5-1. 狙う市場、経済性、普及に至るための環境整備

 実装テストに向けた条件最適化および運用基盤の整備および承認体系の構築を進める。

(1)再利用条件の最適化(AM装置メーカー、材料加工事業者など)
 再利用条件の最適化および再生した再利用粉末の混合方法の確立を実施する。具体的には、再利用回数、ジェットミル等による処理条件、混合率等が粉末の特性および造形品質への影響を評価し、最適な運用に向けた情報を取得する。

(2)狙う市場における導入条件の整理(自動車OEM、自動車部品メーカー、AM事業者)
 補給部品、旧車部品、ダクト類や電装系ボックス等を対象に、コスト、要求特性および適用可能範囲を整理し、導入対象部品および適用条件を明確化する。

(3)サプライチェーンおよび再生拠点の準備(AM装置メーカー、AM事業者、材料加工業者など)
 現場完結型および集約型を前提とし、粉末回収・再生を担うサプライチェーンの運用条件を整理するとともに、再生処理機能を集約する拠点(センター)の立ち上げ準備を進める。

(4)AMに適した承認プロセスおよび標準化の枠組み設計(公的研究機関、自動車OEM、自動車部品メーカーなど)
 従来の材料前提の承認ではなく、AMに適した承認プロセスの構築を検討する。具体的には、材料履歴や再利用条件に応じた評価項目および品質区分を定義するとともに、それらを基にした評価手法を整備し、ASTM等の標準化を見据えた枠組みを設計する。

5-2. 社会導入に向けた活動予定

(1)再利用率向上の実運用検証(AM装置メーカー、AM事業者、自動車部品メーカー)
 まずはスモールスケールの現場完結型の再利用率向上を想定し、最適化した再利用条件を実運用に適用して造形品質および製造安定性を検証するとともに、承認プロセスへの適合性を確認する。選定した補給部品やダクト類等に対して実製造環境での試作・評価を実施し、適用可能範囲および品質要求への適合性および導入の効果を検証する。さらに集約型の運用モデルを実際に適用し、粉末回収・再生フローおよびセンター運用の実効性を評価する。いずれも効果が確認された領域においては、継続的に製造で活用する。

(2)標準化および品質保証手法の具体化(公的研究機関、センター、自動車OEM、自動車部品メーカーなど)
 実装テストで得られたデータを基に、評価手法および品質基準をより実運用に適した形に修正する。さらに、これらを活用してAMに適した承認プロセスを体系化し、国際標準との整合を図るとともに、部品メーカーにおける設計・製造基準および承認プロセスへの適用を進める。これにより、再利用を含むAMプロセスを実際のものづくりに適用可能な形で運用し、品質保証と一体化した製造プロセスとして確立する。

6.お問い合わせ先

イノベーション戦略策定事業全般: (一財)機械システム振興協会
URL: https://www.mssf.or.jp/

本事業の詳細: (地独)東京都立産業技術研究センター
URL: https://www.iri-tokyo.jp/