音波から水素噴流を再構築する データ同化手法の検討

2025年11月17日開催 先端共同PJ成果発表会における発表サマリー

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(本コンテンツの著作権は、朝原 誠 様に帰属いたします。)

1. 研究者紹介

東海国立大学機構岐阜大学・准教授
朝原 誠 氏

略歴:
2009/4/1~2012/3/31    日本学術振興会特別研究員(DC1)研究員
2012/4/1~2013/3/31    青山学院大学 理工学部    助手
2013/4/1~2016/3/31    青山学院大学 理工学部    助教
2016/4/1~2022/3/31    岐阜大学 工学部             助教                 
2018/1/1~2023/3/31    産業技術総合研究所 安全科学部門 クロスアポイントメントフェロー
2022/4/1~現在             東海国立大学機構岐阜大学 工学部 准教授

2. 研究テーマの概要

水素漏洩音・火炎音から噴流状態・火炎状態漏洩個所を予測

 脱炭素化に伴い利用拡大が見込まれる水素の漏えい・爆発リスクを最小化するため、音情報などから水素噴流を推定・可視化し、予測と制御に基づく最適リスク管理へ接続する“水素設備DXリスク管理システム”の中核技術の確立を目指した。

 本研究では、噴出圧力やノズル径を系統的に変えた水素噴流のシャドウグラフ動画と多点音圧計測から大規模データを整備し、①保有特許のFFT-iFFT法により音波生成に寄与する剪断渦成分を抽出、②SVDで空間モードと時間係数を同定して縮約モデルを構築した。さらに、マイクロフォンアレイの指向性解析と到来時間差解析により噴射位置・方向を推定し、現場音を入力として仮想空間内に噴流場を準リアルタイムで再構成した。

 本成果は、今後の水素ステーション等におけるDXリスク管理システムの実装に資するだけでなく、液化水素やアンモニアなどの新燃料の漏えい監視や、空調機の省エネ運転最適化などへの波及効果も見込まれる。

3. [データ科学] × [燃焼工学] 燃焼インフォマティクス

特異値分解を用いた“火炎の特徴”の抽出


(図1) 縮約モデルを提案
“水素噴流火炎”の動画を生成

4. 動画データからのデータセット構築

(図2)

5. ビッグデータからの特徴量抽出: 特異値分解(SVD)/固有直交分解(POD)

特異値分解(singular value decomposition; SVD)

(図3) 時空間行列X→直交行列と対角行列の積に分解

(図4:下図) 例:82MPa水素漏えい拡散における非定常特性 Asahara et al., IJHE(2022)



図4の黄枠内を拡大

(図5) 空間ベクトルをxy空間に戻して可視化((図3)の空間モードを可視化)

6. 特異値分解(SVD)・動画再構築

 SVDで空間モードと時間係数を算出し、さらに縮約モデルを構築した。このモデルに噴出条件を与えることで、仮想空間に噴流火炎を準リアルタイムで再構成する枠組みを提示した。

(図6) 特異値分解(SVD)

動画再構築

(図7:下図) 動画再構築:Original

(図8:下図) 1-2 modes

(図9:下図) 1-10 modes

(図10:下図) 1-50 modes

(図11:下図) 1-200 modes

(図12:下図) 1-500 modes

7. 元動画と再構築動画の類似度を比較

 「元動画と再構築動画の差」を平均絶対誤差(MAE)で評価。その結果、400モードまでの再構築で元動画を84%再現し、1000モードまでの再構築で元動画を99%再現することができた。

(図13) 元動画と再構築動画の類似度

8. 今後の展望

将来的な“水素設備のDXリスク管理システムの構築”に向けたコア技術の確立

– 安価なマイクの量産性とソフトウェア流通の容易さを生かし、水素ステーションから製造プラント・火力発電所まで横断したDXリスク管理を低コストで展開でき、社会全体の安全監視インフラとしての普及が期待される。

– マイクで取得した高時間分解能データを仮想空間でリアルタイム再現し、スプリンクラー・強制換気・防壁の作動タイミング/箇所を自動決定することで被害を最小化する自律防災へ発展し、設備のCADデータ連携により複雑形状の現場にも迅速に適用できるようになる。

– エアコンや空気清浄機の噴流音を利用して仮想流れを生成し、省エネかつ能力最大の最適化運転を常時実行でき、建物や工場単位の改善からサプライチェーン全体のエネルギー効率向上へ波及する。

– 水素だけでなく有毒なアンモニアの漏えい検知にも対応することで、需要拡大時の爆発・毒被害リスクを事前に抑制する包括的検知システムへと発展し、持続可能で環境に配慮した新エネルギーの安全利用を社会実装レベルで下支えする。