オンサイト非破壊検査の高信頼化に向けた全印刷による人工皮膚型の深部透視カメラの創出

2025年11月17日開催 先端共同PJ成果発表会における発表サマリー

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1. 研究者の紹介

李 恒 中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科・助教


【研究分野】
電気電子工学,ナノカーボン科学,非破壊検査技術,光計測,熱計測,薄膜材料

【略歴】
2014年4月 東京工業大学 工学部 入学
2018年3月 東京工業大学 工学部・電気電子工学科 卒業
2018年4月 東京工業大学 工学院・電気電子系 修士課程入学
2020年3月 東京工業大学 工学院・電気電子系 修士課程修了
2020年4月 東京工業大学 工学院・電気電子系 博士課程入学
2023年3月 東京工業大学 工学院・電気電子系 博士課程修了
2023年3月 博士(工学)
2023年4月 中央大学 理工学部・電気電子情報通信工学科 助教 (現在に至る)

2. 研究テーマの概要

 本研究は,卓上での簡易印刷工程により非破壊検査素子としての機能性に富むカーボンナノチューブ(CNT)イメージセンサの高歩留まりな集積を実証しました.

 CNTはスマートフォン等と同様の可視光域でのイメージセンサ応用に加えて,ヒトの眼では見えないミリ波・テラヘルツ・赤外(MMW, THz, IR)といった未踏な光を高感度に検出することができます.これまでにもMMW–IR照射による非侵襲な透過性・広範な材質同定性に着目することで,CNTイメージセンサによる詳細な撮像検査応用を実証してきました(Nature Communications 2021,Science Advances 2022等).

 これらに対して本研究では,CNTおよびイメージセンサを成す電極配線・ドーピング剤がそれぞれ液体加工可能な点に着目して,室温・大気暴露環境下での卓上印刷装置による簡便・高速・高歩留まりな集積技術を確立しました.

 本成果は、特に様々な支持基板材料上へCNTイメージセンサを集積し,基板材料毎にユニークな検査応用を確立しました.中でもウェアラブルグローブとしての応用例は,非破壊検査におけるヒューマンインタラクションを促進する位置付けを占めます.

3. 背景 – 難所インフラの非破壊検査へ

3-1. 熟練検査技師の眼を一般化させる必要性

社会インフラの耐久・耐用年数超過によるシワ寄せ
‐ 政府ガイドラインの安全利用範囲(約50年)から10年
‐ 高所や狭所などの難所環境では検査員の経験により左右
‐ 超高齢化社会では”勘”を身に付けた後継者が絶えず不足

3-2. 不透明非金属材料の巨視的な同定に特化

電磁波・光撮像:非接触,大面積情報,波長依存性
– ミリ波:MMW,テラヘルツ:THz,赤外:IRが鍵

 ‐ 電波由来の高透過性および可視光由来の高直進性を両立
 ‐ 分光計測技術の拡充により豊富な指紋スペクトルが判明

0.電磁波・光検査の強み

1.広帯域・多波長MMW/THz/IR撮像による材質同定
検体・使用者への安全性、非金属材料への識別性の観点でX線計測と差別化

指紋スペクトル ×:吸収

 特に需要が高まっている分野としては,医薬品検査への期待が寄せられている.従来の検査技術において主役となるX線計測に対して,非金属材料間での高信頼な材質同定から相補的役割を担う.Li(講演者),Commun.Mater.2025

4. 研究の独自性 – CNT PTEカメラ

4-1. 材料としての操作性

日本発の先端材料:カーボンナノチューブ(CNT)

4-2. センサ原理

【出典】Li, et al. Sci. Adv. 2022.

5. 研究成果 – ウェアラブルグローブ実装等 

5-1. 検査センサ用途に応じて基板材料を選択

– 室温・大気暴露・室内照明が全てokな素子作製環境
– 約230秒で高密度集積CNT型PTEセンサを全印刷可
– 印刷に適するインク条件:高濃度に濃縮されたCNT
– 高濃度CNTインクの分散剤除去まで印刷装置で完結

0.ユニバーサルな検査素子プラットフォーム:加工基板材料毎のユニークな機能性

吸水性基板:高解像イメージセンサ

伸縮性基板:ウェアラブルグローブ

高透明基板:パッチモニタシート

 ウェアラブルグローブとしての応用例は,非破壊検査におけるヒューマンインタラクションを促進する位置付けを占めます.

5-2. 吸水性基板に対するCNT印刷の活用事例

– 長波長MMW–IR照射において高解像イメージング
– 更なる微細印刷・高解像度化への鍵:CNT粒径制御
– エアジェットディスペンサ
電界インクジェット
– 予備実験では10 µm線幅の極微CNT印刷が進行中

1.吸水基板で高歩留まり

2.高解像(検体:微細ピン)

 光(可視光のみでなくMMW–IR)・歪・熱を媒体とする非破壊検査現場において,本成果による全印刷CNTイメージセンサを高い自由度で活用することが可能になります.

5-3. 専用装置にも比肩するゲージ率3,500超

光計測とは異なる観点からCNTグローブ検査を実証

1.超高伸縮なシート基板

2.ウェアラブル

4.指の折り曲げを可視化

5.繰り返しの曲げに対応

6.掌全領域をモニタリング

透視センサシートを手に装着することができ,指の動きのリアルタイム検知までも可能に.
【出典】Yamamoto, et al. Li, npj Flex. Electron. 2025.

6. 総括 – センサ創出の学理から応用へ

オンサイト検査に向けた萌芽要素を確立

CNTの基礎物理を活かし先端デバイスの創出に成功
‐ 世界に先駆けた超軽量性およびMMW–IR受光性のシート

超軽量かつ広帯域な撮像検査素子の開発は未踏領域
– ボロメータ等の広帯域撮像素子:不透明・大型リジッド
– 有機半導体等の超軽量撮像素子:狭・短波長光帯に制約

 本成果により世界に先駆けて全印刷可能な超広帯域・超高感度MMW–IRイメージセンサが創出され,検査技術分野への貢献のみに留まらず光センサ分野の新たな学理を構築しました.

 検査現場(オンサイト)での実用化・検査技術実装に向けた準備として,CNTイメージセンサと同様な操作性に富む有機半導体タイプの集積回路シートとの一体化(Advanced Materials 2024),更には本プロジェクトを通じたリモート無線制御(Communications Materials 2025)という成果にも結実しております.

 今後は検査精度の更なる向上に向けて,印刷方式を空圧ディスペンサ(300 µm精度)から電界インクジェット(10 µm精度)へと転換することにより,イメージセンサとしての更なる高解像度化を図ります.