1. 趣旨
生成AIをはじめとする昨今のAI技術の急速な進展に伴い、企業における活用が進んでいる中、「AIエージェント」が既に広く話題になっている。しかしながら、製造業においては、AIエージェントを製品の開発・生産プロセスに適用しているケースはほとんどない状況である。
本フォーラムは、こうした状況を踏まえ、製造業における開発、生産プロセスへのAIエージェントの活用方策の検討を行うことを目的とする。
2. 活用のメリットと活用シーンの想定
[1] 特徴、活用のメリット
① 自律して判断するAI(リアルタイムでの意思決定)
生産ラインの稼働状況を監視し、自律的に判断し、異常検知や生産効率の最適化を即座に実行する。
リアルタイム処理が必要な場面で迅速に対応可能。
② プロセス間連携の自動化
生産工程間のデータを統合し、次工程の調整や資材供給を最適化する。
複数のタスクを自律的に管理し、全体の効率を向上させる。
③ 設備の故障予測と保全計画
センサーデータを分析して設備の故障を予測し、メンテナンススケジュールを自動生成する。
長期的な計画立案にも強みを発揮する。
④ 複雑な条件下での最適化問題の解決
生産計画や材料選定など、多数の制約条件が存在する問題に対して最適解を導き出す。
高度な計算能力を活かして、複雑な意思決定を支援。
[2] 活用シーンの想定(例示)
① リアルタイムに処理する活用法
・異常検知とアラート発信
生産ラインや設備のセンサーデータをリアルタイムで監視し、異常を即座に通知する。
ダウンタイムを最小化し、早急な対応を可能にする。
・動的な生産スケジューリング
需要変動や設備の稼働状況に応じて、リアルタイムで生産計画を更新する。
突発的な変化への柔軟な対応を実現する。
・ロボットや自律搬送車の制御
製造現場の状況を分析し、リアルタイムで機械の動きを最適化する。
作業効率の向上と安全性の確保を支援する。
② リアルな活動とは同期しない活用法
・長期的な予測と戦略立案
過去の生産データや市場トレンドを分析し、将来の需要予測や生産戦略を立案する。
時間的な即時性を必要としないが、精度の高い計画策定に寄与する。
・シミュレーションベースの設計改善
製品設計や生産プロセスを仮想環境でシミュレートし、最適な設計案を生成する。
実際の生産活動と同期せずに設計段階で課題を解決する。
・従業員教育とスキル強化
仮想環境を利用して従業員に対して生産プロセスや設備操作のトレーニングを提供
3. 本フォーラムにおける検討テーマ
① AIエージェント導入の基盤整備に向けての準備
・データ収集・共有の枠組み設計
各企業の生産現場から収集するデータの形式や項目
データ共有のためのプラットフォーム構築と運用モデルを議論する。
・設備との連携インターフェース
AIエージェントが加工機械やセンサーと円滑に連携するための通信プロトコルやインターフェース
新旧設備間での互換性確保の方策を検討する。
② AIエージェントの運用上の留意点
・データプライバシーとセキュリティの確保
企業間で共有されるデータのプライバシー保護とセキュリティ対策を議論する。
・AIエージェントの判断に関する責任範囲の明確化
AIが生産現場で行った判断に起因する問題(品質不良や設備故障など)について、責任の所在を明確化する枠組みを検討する。
特に安全性や法的トラブルに対応するためのルールを議論する。
・AIの透明性と説明責任
AIエージェントが行った判断やアクションの根拠を説明できる仕組み
ブラックボックス化を防ぐための技術や手法
③ AIエージェント活用の具体的なケース検討(以下は例示)
・加工精度のリアルタイムモニタリングと最適化
各企業の加工プロセスにおける精度向上のためのAI活用事例を共有し、共通の課題を解決する。
AIによる不良品検出や補正技術の設計。
・設備の予防保全と故障予測
センサーデータを活用した設備の故障予測モデルを共同開発し、各社の設備に適用可能な汎用性を
持たせる。
保全スケジュールの最適化に関するノウハウ共有。
・作業工程の効率化と自動化
4. フォーラム委員
委員 | 所属 | 役職 |
[委員長] 武田 英明 | 国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 | 教授 |
石垣 達也 | 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 言語情報研究チーム | 研究員 |
石川 冬樹 | 国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 | 准教授 |
江越 博昭 | BCC株式会社 | 取締役 |
岡田 忠 | 独立行政法人情報処理推進機構 デジタル基盤センター デジタルエンジニアリング部 (併任) AIシステムグループ | エキスパート |
佐藤 適斎 | アズビル株式会社 デジタル推進本部 デジタルそうぞう部 デジタルイノベーションLabグループ | グループマネージャ |
田中 紀子 | 株式会社荏原製作所 データストラテジーチーム データストラテジーユニット(兼)データエンジニアリンググループ / 戦略企画グループ | ユニットリーダー |
九十九 弘 | 旭化成株式会社 IT・DX統括部 | デジタルイノベーション推進部長 |
富重 将司 | 旭化成株式会社 生産技術本部 生産技術センター | 産機システム技術部長 |
中川 友紀子 | 株式会社アールティ | 代表取締役 |
中村 哲 | 株式会社デンソー 生産技術部 | 担当部長 |
宮本 淳一 | 株式会社PFU 業務革新センター 業務デジタライズ推進室 | 室長 |
村上 存 | 東京大学 大学院工学系研究科 機械工学専攻 | 教授 |
山田 宗範 | 一般財団法人機械システム振興協会 | 専務理事 |
[専門委員] 島田 由希子 | 東京大学 大学院工学系研究科 機械工学専攻 設計工学研究室 | |
[オブザーバ] | 独立行政法人情報処理推進機構 デジタル基盤センター デジタルエンジニアリング部 AI システムグループ / AIセーフティ・インスティテュート |
5. 第1回 開催概要
2025年8月1日 14:30-16:30に第1回 製造業における開発、生産プロセスへのAIエージェントの活用方策フォーラム(委員長:武田 英明 国立情報学研究所 教授)を開催した。
第1回フォーラムでは、AIエージェントの研究動向、製造業における開発、生産プロセスへの活用の課題、本フォーラムにおける論点と検討テーマについて議論した。
【第1回 会場参加者】
