令和5年度 鉄スクラップの高精度選別システム検討フォーラム

1. 事業概要

 当協会では、令和5年度フォーラム事業として、グリーン・トランスフォメーション(GX)やリサイクル化推進、天然資源の有効な利用促進の観点から、とりわけ国内生産量の多い金属系基盤材料の各種スクラップのリサイクルを効率化するための戦略の方向性を明らかにするための議論を行います。
 これまで鉄鋼業界の高炉3社が中心に進めてきたカーボンニュートラル(以下、「CN」と記載。)実現戦略でも、大型電炉の導入が位置付けられており、将来の鉄源として還元鉄、スクラップの利用拡大は、様々な課題がありながらも、高炉メーカのみならず鉄鋼業全体としてCN実現の現実的な解であるとの認識の下、産官学の専門家をメンバーとする委員会(フォーラム)を設置し、先端的な選別システムの試作・検証環境整備による鉄スクラップの品質向上に向けた技術戦略を検討することを目的とします。

2. 事業の目的

2.1 背景・必要性

 日本国内では、産業分野のうち鉄鋼業は、CO2の排出量が最も多い産業部門であり、その鉄鋼業のCO2排出量は2019年度で約1.55億トンと、産業部門の排出量の40%、日本全体の14%を占めています。このため、鉄鋼業のCO2排出削減は、日本全体のCN実現のために急務な課題となっています。世界各国も同様な事情から、鉄鋼業のCNを、官民の協力の下、政府の支援を受け総力を挙げて対策を講じつつあります。
 日本では、高炉3社が、高炉をベースとした水素還元製鉄技術を国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け国家プロジェクトとして進めていますが、本技術だけではCNの実現に届かないため、最近では、欧州と同様に、直接還元製鉄の利用、電炉による鉄スクラップを最大限有効に活用することを新しいCN戦略の柱の1つに据えています。
 鉄スクラップの利用を拡大する場合、鉄鉱石の採掘、輸送、および高炉プロセスに伴うCO2排出分が最大で74%削減することができる一方、スクラップを原料として、特に高級鋼を生産しようとする場合に、不純物混入の問題が解決すべき課題となっています。 

2.2 対象領域

 鉄鋼の各種スクラップの選別、鉄鋼リサイクルの効率化

3. 事業の内容(技術的、機械システム構成上の課題と実施事項)

3.1 技術的、機械システム構成上の課題

 鉄スクラップの利用の大幅拡大には、克服すべき様々な技術的な課題があります。

【課題1】異物識別
 鉄スクラップ回収時に、鉄スクラップの選別を精緻に行わないと他の元素が異物として混入してしまう可能性があります。また、鉄鋼材料は多様な元素を添加し、合金化するため、リサイクルするとそれ等の元素が不純物元素として混入してしまい、除去が困難です。不純物の濃度がある水準を超えるまでに濃化すると、鋼材に悪影響が出て再利用できなくなるリスクが生じます。
 リサイクル材の不純物濃度を下げるためには、高炉銑での希釈や素性の知れた鉄スクラップでの希釈が必要ですが、希釈には量的に限界があり、また、希釈に頼るとより多くの高炉銑等の精製や輸送に伴う環境負荷増大の要因にもなります。そのため、鉄スクラップの高度な選別技術の開発や不純物元素(トランプエレメント)の抑制により、鉄スクラップを高品位化することが必要です。

【課題2】鋼材種等判別
 日本の鉄鋼業の強みでもある高級鋼材(例えば、ハイテンや電磁鋼板)は、現行のリサイクルシステムでは、鉄スクラップとして他の鋼材種と区別されることなく回収、リサイクルされている場合があります。これら高級鋼材の生産においては、従来の製鋼では微量であっても特性へ影響のある不純物が混入するリスクがあることからスクラップを利用するのが困難でした。
 しかしながら、スクラップ原料の素性が明確であれば、所内発生の端材と同様と扱うことができ、元の鋼材品種に繰り返し使用(水平リサイクル)することが可能であると考えられます。これは、高級鋼材中の高Mnや高Siの合金成分を有効利用することにも貢献します。

【課題3】化学組成、グレード推定
 上記のとおり鉄スクラップについて成分別(合金別)に選別・選別を高速かつ精度よく行うための革新的な鉄スクラップ選別システムの開発が必要です。
 その上で更に鉄スクラップの利用拡大を進めていくためには、その選別精度で回収したスクラップ原料を溶解した際の平均化学組成を推定し、選別後の再生資源からどのグレードの製品が作れるかを判断し、高品質な再生素材を生産するために必要なシステム技術も必要となります。

3.2 課題への対応(実施事項と課題解決のアプローチ)

 上記「3.1 技術的、機械システム構成上の課題」で記載した各課題への対応のため、AIによる選別の高精度化、鉄スクラップ規格の標準化など、さまざまな面からの検討、技術開発が必要です。
 本フォーラムでは、画像認識、選別技術、AI等の先端技術の活用を念頭に置いて、高速かつ精度よく自動判定する新スクラップ選別システム開発の方向性を検討します。新スクラップ選別システム構築の実現可能性を見極めるため、以下の【実施事項1、2、3】の3点を議論します。
 こうしたシステムを早期に開発し社会実装することがCN実現にとって肝要であることから、システムの具体的開発は、将来、政府支援を受けて国家プロジェクト化することも視野に入れて検討を行います。

【実施事項1】異物識別
 鉄スクラップに混入する異物(特にトランプエレメントと、爆発物、プラスチックやゴム製品といった可燃物、油脂等の、製鋼における操業上の禁忌物)を高精度・高効率に選別し、意図しない不純物元素の混入源を排除するシステムの開発を検討します。

【実施事項2】鋼材種等判別
 鉄スクラップの中からハイテン・電磁鋼板等の高級鋼を効率的に識別、選別し、水平リサイクルを可能とするシステムの開発を検討します。

【実施事項3】化学組成、グレード推定
 高品質な製品を生産するために必要な選別精度の特定を行うシステムの構想を検討します。
 具体的には、上述のシステムによって選別されたスクラップ材を利用した製品の平均化学組成を推定することによって、選別後の再生資源からどの程度のグレードの製品が作れるかを分析・推計し、金属スクラップの品位を精緻に自動判定するシステムの可能性を検討します。

4. フォーラムメンバー

【委員長】 星野 岳穂 東京大学 工学系研究科 マテリアル工学専攻 特任教授
【構成メンバー】学識者、企業、関係団体等からの参加メンバーにより構成

5. 第1回開催概要

2023年9月19日(火)15:00-17:00(場所:伊藤国際学術研究センター [東京都文京区本郷] )
第1回フォーラムでは、鉄スクラップの高精度選別システムを検討する上での課題と論点などに関する議論を行いました。

【第1回開催状況】