光ファイバーを用いた新たなインフラ維持管理手法に関する戦略策定に関連した成果普及 (平成29,30年度 イノベーション戦略策定事業)

1.イノベーション戦略策定事業の対象テーマ名(実施年度)

光ファイバーを用いた新たな地盤探査技術を線状土木構造物へ展開することに関する戦略策定(平成29年度)
光ファイバーを用いた新たなインフラ維持管理手法に関する戦略策定(平成30年度)
委託先:(一財)エンジニアリング協会

2.事業実施後の成果普及

 エンジニアリング協会においては、当協会の委託事業での議論を踏まえ、統合物性モデル技術研究組合(令和元年11月)の設立に参加し、光ファイバーを用いたDAS-4Dタイムラプス技術の展開活動を行うとともに、自主研究として令和4年12月、岡山大学裏山崩壊地でDAS計測を実施しました。
 また、国土交通省の「河川堤防の変状検知システム」の公募においてエンジニアリング協会及び戦略策定委員会メンバー企業(平成30年度)が中心となって参加申請した結果、技術選考され、令和3年2月に越水実験、河岸浸食実験を実施し、堤防の浸食検知等の検証結果が国土交通省国土技術政策総合研究所により公表されました。

3.イノベーション戦略策定事業の実施概要

目的

 我が国の土木インフラは老朽化が進んでおり、国土強靱化の一環として、新技術を用いて、低コスト・省力化でインフラを維持・管理する必要性が高まっています。土木インフラのうち線状の土木構造物(河川の堤防、橋梁など)に対しては、光ファイバーをセンサーとして用いてモニタリングすることが有望であり、そのような新技術として、石油・天然ガス分野で開発されたDAS技術(Distributed Acoustic Sensor 技術)が期待されています。
 これは、光ファイバーの一端にDAS計測装置を設置して、光ファイバー中の反射光位相変化から、各地点の振動を計測する技術ですが、これに2時点の計測データを比較分析する4Dタイムラプス技術を組み合わせて、DAS-4Dタイムラプス技術とすることで有効に利用できるのではないかと考えられます。
 このため、本事業では、インフラの維持・管理の高度化を目指し、この技術の実用化に向けた戦略を策定しました。

図 DAS-4Dタイムラプス技術

事業概要

[平成29年度]
 学識経験者、本技術関連企業、盛土等の調査企業、研究機関などが参加する戦略策定委員会及びその下にDASWG、盛土WG、橋梁WG、タイムラプスWGなどをエンジニアリング協会に設置して、次の事業を行いました。

①DAS技術の現状と展望に関する調査
 シュルンベルジュ社から講師を招き、DAS技術の現状と展望についての講演会を開催しました。
また、DASWGにおいて、DAS技術及びこれと競合する他の方式の物理探査技術についての文献調査を行い、それらの技術の特徴を調査し、相互比較を行うとともに、線形土木構造物などへの適用可能性(ニーズ・シーズのマッチング)を検討しました。盛土WGでは、河川の堤防にDAS技術を応用する上でのニーズを調査し、適用可能性を検討しました。

②簡易実証試験
 光ファイバーを土中に埋めてその一端に置いたDAS計測装置で各地点の振動を計測しました。その結果、この計測システムは地震計と同程度の精度を有していること、このデータを4Dタイムラプス技術(2時点のデータの比較)で分析すると観測中の降雨による振動波形の変化も高い精度で観測できること、したがって、この技術は効率的なインフラ維持管理に有望であることが分かりました。本実験は、盛土WGが中心になって企画し、タイムラプスWGがデータ処理を行い、DASWGも実験に立ち会いました。

③橋梁(高速道路)の維持管理への適用可能性の検討
 橋梁WGにおいて、橋梁(高架の高速道路など)の維持管理のニーズを調査し、DAS技術の適用方法などを検討しました。この結果、橋梁管理者は、あまり予算を掛けずにインフラを維持管理するニーズが強く、インフラの劣化の原因として過積載トラックの通行が大きな問題になっていることを示し、既設の通信用光ファイバーの空いている線を活用したDAS計測によって異常(過積載トラックの通行)を検知することに実用化の可能性が高いことを明らかにしました。

④DAS-4Dタイムラプス技術のインフラ維持管理への適用に関する戦略の策定
 土木インフラの維持管理に関する現状と政府の計画を調査し、各WGでの検討成果を踏まえて、今後、この分野にDAS-4Dタイムラプス技術を適用するための戦略を検討しました。具体的には、今後、この技術を研究開発する企業などの仲間づくり、公的研究開発制度(PRISM制度など)への研究計画の提案、技術研究組合の設立、研究開発活動などを経て、10年後を目途に新たなセンシング産業を創造するロードマップを作成しました。

[平成30年度]
 29年度事業の中で、簡易実証試験として、光ファイバーを土中に埋めてその一端に置いたDAS計測装置で各地点の振動を計測しました。その結果、この計測システムは地震計と同程度の精度を有していること、このデータを4Dタイムラプス技術で分析すると観測中の降雨による振動波形の変化も高い精度で観測できること、したがって、この技術は効率的なインフラ維持・管理に有望であることが分かりました。
 学識経験者、本技術関連企業、盛土等の調査企業などが参加する統括委員会及びその下のDAS WG、盛土WG、橋梁WG、タイムラプスWG、ビジネスモデルWGを、エンジニアリング協会に設置して、本技術の認知度向上、適用性試験、ビジネスモデル、戦略策定などを検討しました。その主な成果は次の通りです。

①高速道路での適用性試験
 阪神高速道路(株)の協力により、既設の通信用光ファイバー(予備芯)を用い、DAS計測装置を路下中継装置に設置して、橋梁(高架の高速道路)の各地点の振動を計測しました。これは極めて簡易な計測試験ですが、そのデータを解析した結果、昼夜の交通量の差異、局所的に振動が大きく発生する箇所、重量車の通行によると思われる極端な振動のピークなどが検知できていることが分かりました。このため、実用化までには課題はあるものの、将来の利用可能性があると判断されました。

②DAS-4Dタイムラプス技術の長所・短所
 DAS-4Dタイムラプス技術は、1台のDAS計測装置による集中管理により、数十kmの振動測定を1/1000秒毎、測定ピッチ1m毎で計測することができ、長い土木構造物の振動測定を極めて効率的に行えることなどの長所が明らかになる一方で、振動測定なので応力や歪みは間接的な評価になっていること、空間分解能は現状では1mで、インフラ維持・管理で要求される0.25mに満たないことなどの短所も明らかになりました。

③ビジネスモデルの検討
 有望な用途を検討したところ、地中の空洞などに対して、現在のランドストリーマ方式による地震計での弾性波探査(表面波探査)に代替して、将来、ランドストリーマで光ファイバーを牽引して弾性波探査を行う診断受託ビジネスが考えられます。また、高速道路の管理者が、将来、点検コスト削減のために、路面異常や疲労損傷の早期発見のための常時監視に用いることも考えられます。ただし、実用化までにデータ蓄積などの課題があり、当面は研究開発が必要です。

4.お問い合わせ先

[1] 本事業の報告書の提供をご希望の方は、以下の資料送付申し込みページからお申し込みください。
https://www.mssf.or.jp/contact/#request

[2] 本件に関するお問い合わせは、以下のお問い合わせフォームからお願い申し上げます。
https://www.mssf.or.jp/contact/#inquiry