令和4年度イノベーション戦略策定事業 成果概要

環境対応型新鋳鉄鋳造機械システムに関する戦略策定

委託先団体:一般財団法人素形材センター

事業の目的

1.本テーマの背景、必要性

 球状黒鉛鋳鉄(FCD)部品の工法を砂型から金型鋳造とした場合、これまではFCDの溶湯が高温であるため、急冷凝固によりチル化した脆い組織の形成になってしまうとともに金型寿命も短くなり、機械システム化が困難であった。しかし最近、FCDの無チル化、高耐熱性金型素材等の研究が進み、鋳鉄製部材の量産化を想定した「新鋳鉄鋳造機械システム」の開発と実用化への期待が高まってきた。

2.社会導入・事業化を狙う対象領域

 本機械システムは、製造工程がシンプルなため機械化・自動化が容易になり、生産性も向上するので、これまで砂型鋳造で製造してきた自動車用部品、産業用機械部品等の全てのものが置き換え可能となり社会導入・事業化が進む。さらに金型を用いるため、高い寸法精度、高強度の部品製造が可能で適用範囲も拡がる。

3.イノベーションの目指す姿

 本システムの実現により、①鋳造サイクルの短縮、②高強度等による軽量化、③コストダウン、④溶解方式の変更でCO2排出削減、⑤産業廃棄物低減が可能となり、鋳造業の常識を覆すイノベーションとなる。


図1 新鋳鉄鋳造機械システムのイメージ

事業概要

1.市場・ユーザのニーズ・評価をとらえるための実施事項

 鋳鉄の金型鋳造と無チル化に関する国内外の文献と企業情報の調査、さらに自動車部品メーカーと鋳鉄鋳造企業に対して、将来にわたって鋳鉄を使用する製品群の聞き取り調査を行った。

2.技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題への対応、目標達成のための実施事項

 無チル化のための鋳造技術(溶湯成分、溶湯処理方法、鋳造方案等)の明確化と長寿命化のための金型設計(金型材質、金型構造設計、塗型条件等)の明確化が達成できた。

3.社会導入・事業化に向けた実施事項

 市場ニーズに対応した適用部材を選定し、「新鋳鉄鋳造機械システム」の概念構想と試算の検討を行った。機械システム構築のための開発ステップ、ロードマップについて検討し、提案を行った。

主要成果

1.市場・ユーザのニーズ・評価

 自動車部品メーカーと鋳鉄鋳造企業のニーズから金型鋳造の効果が発揮される部材として評価された、剛性が求められる自動車足回り部品(ナックルなど)、機能性を有するゴルフパターと南部鉄器、高寸法精度の歯車などを新鋳造機械システムでの生産に適した対象品として選定した。

2.技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題及び達成目標に対して得られた成果

(1)無チル化に関する鋳造技術検証により得られた知見: 鋳造技術について、目標の無チル化に対して、試験検証の結果、フリー窒素の制御などで無チル化を実現できることが明らかになった。
(2)長寿命化に関する金型技術検証により得られた知見: 金型の長寿命化として、目標レベル2000ショットに対して、黒鉛系塗型剤であれば、耐熱・耐久性の点から2000~10000ショットの生産は可能であることが明らかになった。
(3)システム構成上の課題: 新鋳鉄鋳造機械システムについては、金型傾動鋳造機、塗型ロボット、溶湯注湯機、製品取出機の装置を組み合わせた機械システムで対応可能との結果が得られた。新たに、ロボット導入によりコストアップの課題が顕在化したが、安全・環境対応、省人化対応の観点からトータル的に問題がないとの結論に至った。

3.社会導入・事業化に向けた課題へのアプローチ、普及戦略

 環境対応型新鋳鉄鋳造機械システムによる工法変更に伴う、ユーザ承認の手続きが必要とはなるが、従来の砂型鋳造に比べ、金型鋳造は、鋳肌がきれいで寸法精度が高いこと、ロボットを導入してオール電化にすれば、SDGsにも貢献できることをPRして、新鋳鉄鋳造機械システムの普及を図る。

図2 対象製品の達成ロードマップ

今後の展開

1.狙う市場、普及、経済性

 関係学会や業界の協力を得て、素形材センターを中心に技術誌やセミナーにより鋳造企業へ本成果(環境配慮や省人化、技術の優位性、経済的効果)の啓蒙を図る。

2.普及に至るまでの環境整備

 本システムに係る新たな知財の保護のため、発案者による特許出願、ノウハウ漏洩防止などの知財戦略を構築する。また、本システムを導入する鋳造企業は、工法変更(砂型→金型)に伴うユーザ承認などの準備を進める。

3.社会導入

 関係学会や業界団体の協力を得て、素形材センターや岩手大学が核となり、本システム導入に関心を寄せる鋳造企業を支援する。

問い合わせ先

イノベーション戦略策定事業全般:(一財)機械システム振興協会
本事業の詳細:(一財)素形材センター
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