令和6年度イノベーション戦略策定事業 成果概要

ドローンのデータセキュリティの高度化に関する戦略策定

委託先:一般社団法人ソフトウェア協会

目次

1.事業概要

 ドローンをはじめとする遠隔型ロボットの急速な発展は、産業界において大きな変革をもたらしますが、同時にドローンのデータセキュリティをどう確保するかという新たな懸念が生じています。

 本事業においては、産業界が安心してドローンを使用できるようになることを目的とし、情報を分散化させて無意味化する「秘密分散技術」をドローンに搭載するための要件や基本的仕様を明確化しました。

 また、暗号化などの現在ドローンに搭載されている技術と秘密分散技術を比較して秘密分散技術の優位性やハードウェア導入コスト低減の可能性などを検討し、今後の実装に向けてかかる工数や課題を明らかにしました。

2.事業の目的

2-1.本テーマの背景・必要性

 ドローンの急速な発展は、インフラ・工場・倉庫等産業界における点検警備の効率性の向上や無人輸送等の新たな変革をもたらしています。しかし、その一方で大多数のデータシステムは海外製のハードウェアに組み込まれたシステムをそのまま使用せざるを得ないなどのデータセキュリティに関する新たな懸念が浮上しています。

2-2.社会導入・事業化を狙う対象領域

 基幹インフラ設備(発電所・製油所・鉄道・水道・橋梁・トンネル等)や工場などのように稼働状況や劣化箇所が特定されると影響のある場所において点検・警備・輸送に使用されるドローンに対して、秘密分散技術を導入することを対象としました。

 いわゆる無人航空機型のドローンや地上走行型のドローン(遠隔ロボット)は、通信・制御の基盤となる技術は類似しているため、まずは無人航空機としてのドローンに焦点を定めました。

3.事業の内容(実施事項)

3-1.市場・ユーザのニーズ・評価を捉えるための実施事項

課題アプローチ
ドローンの各産業における稼働状況の整理と将来市場性の整理基盤インフラでのドローン運用を行う企業や警備会社などへのヒアリングや実際の作業現場における定性調査を実施
ドローンに保存されるデータ種類の整理や通信方法の整理実機の調査(カタログなどを含む)を通して、実際に現場で使用されているドローンとその内部構造とデータの管理状況を纏めて報告
現状のデータセキュリティ手法の種類の整理や懸念点の確認ドローンの内部及び周辺機器で行われているセキュリティ対策と暗号化と付随するセキュリティ上の有効性や懸念についても可能な限り調査
データセキュリティに関する有識者や運用者の認識の整理現状とあるべき姿のギャップを浮かび上がらせて、報告書に反映。その上で、秘密分散技術の活用可能性についても整理

3-2.技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題への対応、目標達成のための実施事項

課題アプローチ
[実施事項1]
市場調査・実機調査・カタログ調査
市場性について、市場動向分析、競合分析、顧客ニーズ調査、市場セグメンテーションを行いまとめるとともに、実機の情報収集を行い、性能の評価を行います。
[実施事項2]
ヒアリングと定性調査
運用者が実際に感じている課題や、トラブル事例などを聞き込むとともに、秘密分散の技術を説明し、実例に照らして適用が適切かどうかの反応を調査します。
[実施事項3]
秘密分散技術の検討
有識者及び秘密分散の技術者へのヒアリングを実施し、既存の暗号化手法に対する秘密分散の有効性を整理します。
[実施事項4]
簡易的接合試験(シミュレーション)の実施
実運用に向けた秘密分散技術を搭載し、複数の従来方式との比較分析ができる複数の運用パターンを想定しつつデータ取得をし、それぞれのメリットやデメリットを分析する試験を行います。

3-3.社会導入・事業化に向けた実施事項

4.主要成果

4-1.市場・ユーザのニーズ・評価

 ドローン市場は国内外で急成長しており、特に産業分野での導入が加速しています。日本でも市場規模は2028年に9,000億円を超える見込みで、点検、警備、物流、農業など幅広い用途で活用が進んでいます。しかしながら、国内市場では中国製のドローンが70%以上のシェアを占めており、国産機の導入はごくわずかです。中国製のドローンは性能・安定性・コスト面で高く評価されており、国産機の普及には課題が残ります。

 本プロジェクトでは2024年に産業利用企業10社を対象に調査を実施し、そのうち5社にヒアリングを行いました。全社が中国製のドローンを使用し、国産機の採用例はありませんでした。現場ではフェイルセーフ(安全対策)に対する関心は高い一方、データや通信のセキュリティは軽視されがちであることが明らかになりました。 このように、多くの運用者がデータセキュリティのリスクを過小評価しており、特に機密性の高い業務においては「秘密分散技術」のような高度な対策が必要です。

4-2.技術的な課題、機械システム構成・開発上の課題及び達成目標に対して得られた成果

 本事業では、ドローンのデータセキュリティ強化を目的に、秘密分散技術の実装可能性と実用性を検証しました。検証では、(1)ドローンの物理的占有によるデータ漏洩対策、(2)通信のなりすましによる乗っ取り防止という2つのシナリオを設定し、模擬環境での実証試験を実施しました。

 使用したのは、AONT(All-Or-Nothing Transform)方式による秘密分散技術で、鍵を用いずにデータを無意味化することで高いセキュリティを実現します。本事業においては、ドローンの機体による空撮を模した構成を構築し、リアルな構成で処理の動作を確認しました。 その結果、秘密分散処理による飛行性能への影響は極めて軽微であり、分散片単体では情報を復元できないことも確認されました。これにより、ドローン内部データの安全性を高める手段として秘密分散技術が有効であることが示されました。

4-3.社会導入・事業化に向けた課題へのアプローチ、普及戦略

 本事業では、技術的検証に加えて、秘密分散技術の社会実装と普及に向けた課題の整理と戦略立案も行いました。ヒアリング調査を通じて、運用現場ではフェイルセーフへの関心が高い一方、データセキュリティへの意識は相対的に低いことが明らかとなり、導入促進には認知向上と実装メリットの可視化が不可欠であることが確認されました。

 普及に向けたアプローチとしては、セキュリティ要求の高いインフラ点検等の分野から導入を進め、実績をもとに段階的に展開することを想定しています。また、国や自治体による導入要件への反映や、チップ化による製品化も視野に入れ、ロードマップを策定しました。 今後は、啓発活動や標準化に取り組みつつ、技術的優位性とコストバランスを両立させたビジネスモデルの構築を通じて、持続的な普及を目指してまいります。

5.今後の展開(活動予定)

5-1.狙う市場、経済性、普及に至るための環境整備

 本技術は、今後数年間で急速な拡大が見込まれるインフラ点検、警備、物流、災害対応といった産業用途のドローン市場を主要ターゲットとしています。特に、公共インフラを扱う自治体や大手事業者が導入を検討する際に求められる高いセキュリティ要件への対応として、秘密分散技術の搭載は重要な差別化要素となります。

 秘密分散技術は、処理負荷やコストが比較的低く、OSS環境や小型デバイスにも対応可能であるため、チップ化やモジュール化により量産化が現実的です。今後3〜5年の間に、実証結果を基にした商用実装モデルを整備し、技術の標準化・認証制度との連携を図りつつ、国内メーカーとの共同開発を進めてまいります。 活動主体としては、引き続き一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)およびアイ・ロボティクス社、ZenmuTech社などの関係機関・技術企業が中心となり、関係省庁や自治体とも連携して展開を図る予定です。

5-2.社会導入に向けた活動予定

 社会導入を実現するためには、まず政策提言や調達基準への反映など、制度面からの環境整備が重要です。今後は、国や自治体が導入する公共ドローンへの秘密分散技術の採用を目指し、調達要件や標準仕様への組み込みに向けた働きかけを進めてまいります。

 併せて、技術ガイドラインの策定、実証フィールドの拡大、ユーザ向けセミナーや展示会での周知活動などを段階的に展開し、関係者間での理解と利活用を促進します。特に、ドローンを活用したイベント演出、遠隔警備、災害対応といった具体的なユースケースにおいて、モデル事例を積み重ねることを目指します。 これらの活動は、SAJと技術パートナー企業に加え、自治体・研究機関・業界団体などとの連携体制のもと、オープンな開発・運用モデルを志向しながら進めていきます。3〜5年のスパンで実装と普及の基盤を構築し、将来的な国際展開も視野に入れて活動を継続する予定です。

6.お問い合わせ先

イノベーション戦略策定事業全般:(一財)機械システム振興協会

本事業の詳細:(一社)ソフトウェア協会
URL:https://www.saj.or.jp/

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